歴史を変えた東京五輪世代の選手たち “U−19病”を克服、かみ合った歯車

川端暁彦

7回目の決勝でようやくつかんだ初優勝

東京五輪世代の選手たちが5大会ぶりのU−20W杯出場を決め、AFC・U−19選手権初優勝を成し遂げた 【佐藤博之】

 ペルシア湾に浮かぶ中東の島国バーレーン。その主島たるバーレーン島は古くから文明が栄えた土地であり、アダムとイブの神話で有名な「エデンの園」のモデルになったという説もあるそうだ。世界史にその名を刻む小さな島国において、日本の未来を担う東京五輪世代が初優勝という形でアジアのサッカー史に自らの名を刻み込むこととなった。

 19歳以下のサッカー・アジア王者を決めるAFC・U−19選手権。その第40回大会が現地時間10月13日から30日にかけてバーレーンにて開催された。この大会は来年開催されるU−20ワールドカップ(W杯)のアジア最終予選も兼ねており、ベスト4のチームに対しては無条件に出場資格が付与されるシステムとなっている。このため、出場各国のターゲットは「第一に世界大会への出場権を得ること」(内山篤監督)になる。

 となると、最大の山場は4強の決まる準々決勝。一発勝負ですべてが決まってしまう理不尽なルールだが、そこに壁がある以上は乗り越えるほかない。「みんなで歴史を変える」(MF坂井大将=大分トリニータ)ことをテーマにしながら、約2年にわたって壁を破るための積み上げを続けてきた。

内山監督が発掘した小川、岩崎

エースの小川航基(中央)は、これまで年代別代表に入っていなかったが、主軸の選手へと成長した 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 1年目は完全に積み上げの時期である。内山監督が取り組んだのは、ある意味で育成年代の監督に最も求められる仕事。つまり「才能の発掘」である。普段から「大量に選手を呼んで、取っ替え引っ替えというのはどうも好きじゃない」と語っている指揮官だけに、あれもこれもと選手が招集されるようなことはなかったが、逆に「これは」と見込んだ選手は我慢して起用を続けた。年代別代表チームの目的を「まず何よりA代表選手を輩出すること」と位置付け、そのために「将来A代表になるような選手に国際経験を積ませること」と見定めるアプローチである。

 その過程で出てきたのがFW小川航基(桐光学園高→ジュビロ磐田)、岩崎悠人(京都橘高)、といった選手たちである。小川と岩崎は共にJクラブのユースチームが日本代表の主流になる中で、高校のサッカー部に所属していた選手たち。内山監督によって引き上げるまでは年代別代表に入っていなかった選手たちだが、国際経験を重ねる中で最終的に主軸の選手へと成長していった。小川が「監督には本当に感謝しかない」と振り返っていたのも無理はない。

Jの舞台で出場機会をつかんだユース組

この世代は中山雄太らJリーグで実戦経験を積み上げた選手がいたことも大きい 【写真:築田純/アフロスポーツ】

 ここにDF冨安健洋(アビスパ福岡)、MF堂安律(ガンバ大阪)といった内山監督がJFAエリートプログラム(U−13〜14のカテゴリーを対象とした選抜合宿)で「将来のA代表」と見いだしていたタレントと、U−17以下の代表歴を持つ上級生たちが混ざり合う形でチームは徐々に成熟していく。ラージグループを固めながらも新戦力を少しずつテストしていく手法で、昨秋の1次予選から今年のAFC・U−19選手権までにチームのメンバーは半数近くが入れ替わることとなった。

 その過程で、徐々にJリーグでレギュラーポジションを奪う選手も出現していったことも大きかった。最終的には冨安、DF中山雄太(柏レイソル)、MF神谷優太(湘南ベルマーレ)といった選手たちがJ1の舞台で出場機会を確保。またJ3リーグへU−23チームが参加するようになり、G大阪やセレッソ大阪の選手たちがそこで実戦経験を積み上げたことも、地味ながら確固たる意味を持つこととなる。この2クラブの選手は“U−19病”と呼ばれる高卒1年目で出場機会のない選手がしばしば陥るコンディション不良に悩まされることなく、バーレーンへとやって来ることができた。もっとも、所属チームで出場機会を得る選手の増加は、各種の合宿や遠征で選手招集が難しくなることと裏表のため、必ずしも喜んでばかりはいられなかったのだが。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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