リオデジャネイロ五輪の競泳男子４×２００メートルリレーで銅メダルを獲得した松田丈志（セガサミー）が１２日、都内で引退会見を行った。すでに引退を表明していた松田は、９日の岩手国体男子４００メートル自由形で３位に入ったレースが、現役最後の試合となった。

　会見では「今はすっきりしていて、１点の悔いもないという気持ち」と晴れやかな表情を見せた松田だったが、同席していた久世由美子コーチの話題になると声を詰まらせる場面も。「コーチがいなければ今の自分はなかった。本当に長い間、常にそばにいてくれて、これから恩返ししていければ」と思いを語った。

　松田は２００４年のアテネ五輪から４大会連続で五輪に出場。０８年北京五輪、１２年ロンドン五輪と２００メートルバタフライで銅メダルを獲得した。またロンドン五輪では４×１００メートルメドレーリレーで銀、リオ五輪では４×２００メートルリレーで５２年ぶりの銅メダルに輝くなど、日本競泳界に確かな足跡を残した。

　以下は、松田と久世コーチの質疑応答。

松田　すでにご報告させていただきましたとおり、私、松田丈志は先日行われました国民体育大会の４００メートル自由形のレースをもちまして、現役の第一線から退く決意を下しております。４歳から水泳を始めて、いろいろな方に支えられながら、これだけ長く競技生活を続けてくることができました。何より今日も隣にいてくださる久世コーチの支えがなければ、ここまでくることはできなかったと思っています。五輪での金メダルは獲得できなかったですけど、この競技人生で獲得できた五輪の４つのメダルは、今となっては１つ１つが思い出深く、どれ１つ欠けてほしくないメダルになっています。今後は、これまで水泳で培ってきたものを生かし、さらに水泳人生が輝きを増すように、これからも自分自身の挑戦を続けていきたいと思います。

久世　私は松田のことを４歳からずっと指導してきました。今となっては「あぁ、終わったか」という感じですけど、２８年間というのはすごいことなんですよね。何も分からないところから始まって、何もない施設からここまで来て、４回も五輪に出られたことは良かったと思うのと、松田がすごく頑張ったんだなという思いがあります。１回、私の元から離れたときはそんなに感じなかったんですけど、今は「練習メニューを作らなくていいんだ。夜中に起きて泣かなくていいんだ」と感じています。それも今後は寂しさになってくるのかもしれませんが、しっかりとそれを受け止めてやっていきたいと思います。

――引退レースから３日たったが、あらためて今の気持ちは？

松田　引退は初めてのことなので、自分自身もここ数年は「どういう心境でこの日を迎えるのかな」とイメージはしていたんですけど、どうなるか分からないなと思っていました。でも今はすっきりしていて、１点の悔いもないという気持ちでいます。

――２８年間という長い競泳人生を振り返って、どんな競泳人生だったか？

松田　世界の舞台に立つようになってからは、金メダルを目指して、世界一になりたいという思いでやってきました。でも金メダルには届かなかった。最も金メダルに近づいたのはロンドン五輪のレースだったと思うんですけど、あのレースを消化するのに２、３年かかりました。そこを乗り越えて今年のリオ五輪があって、今はどれも良い思い出になっています。金メダルに届かなかったのも良い思い出になったからこそ、今の自分があると思います。

――その中でも一番思い出に残っているレースは？

松田　難しいですね。人間は忘れていきますから。やっぱりリオのレースが一番最近にあったので、今はその思い出が強いですけど、さかのぼって考えれば、北京での初めての銅メダルもうれしかったし、ロンドンでは個人で金を取れなくて悔しかった中で、メドレーリレーでは銀メダルが取れた。そこで初めてリレーでメダルを取る喜びを味わって、それがあったから今回のリオで、もう一度リレーであの喜びを味わいたいと。後輩たちにもあの喜びを味わってもらいたかったし、本当にどれ１つ欠けてほしくないメダル、レースになりました。

――松田選手と言えば「（北島）康介さんを手ぶらで帰らせるわけにはいかない」という名言が残っているが、そういう言葉などで他の選手を思いやる行動が印象的だった。個人競技である競泳において、チームワークの大切さを伝えてこられたと思うが、どう考えているか？

松田　僕自身も最初のアテネ五輪のときに、メダルを取れなかったんですけど、メダルを取った先輩方を見ていく中で、仲間を思いやることで自分自身も強くなることを学びました。それからは自分自身もその思いを大事にしてきましたし、こうして引退する日が来るわけですから、自分が学んだことを後輩たちに少しでも伝えたいと常に思って、今日までやってきました。

――原点となったビニールハウスの中のプールについては、どう感じている？

松田　これだけ長くやってきたわけなので、自分にとってはあの環境が当たり前になっているんですけど、先日、国体の前に戻ったときも、やはり宮崎の夏でビニールハウスなので、気温は４０度以上あって、陸トレしようと思ってもなかなかできないような暑さでした。そのときにはよくこの環境の中で自分は頑張ってきたなと思いましたね。やはり夏は暑くて、冬は寒いですから、終わりを迎えると苦しかった思い出も、自分の誇りとして残っています。

――４歳のときから指導を受けていた久世コーチへの思いを教えてほしい。

松田　コーチがいなければ今の自分はなかったと思っています。本当に長い間、常にそばにいていただいて、昨日はコーチから、長年コーチがつけていた練習ノートを渡されました。「最後に何か一言書いてくれ」と言われて書いたんですけど、そうやって１つ１つは小さいことかもしれないですけど、これを長く続けていくことは大変なことなので……。それをやっていただいたことに感謝しています。これから少しずつ恩返しをしていければと思っています。

――そのノートには何て書いたのか？

松田　「このノートには僕の選手としての成長と歴史がすべて詰まっていると思います」と書きました。他にも書いたんですけど、そういう感じです（笑）。

――これから久世コーチと会う機会も減ると思うが、寂しい気持ちはあるか？

松田　いや、けっこう会うと思います（笑）。先のスケジュールが入っていて、さすがにこれまでよりは減りますけど、会う機会はないわけではないです。プールで怒られることはなくなるので、僕自身はホッとしています（笑）。

――もうあのプールで練習することもなくなることについては、どう思うか？

松田　そう思ってしまうと寂しいので、先日お願いしたんですけど、スイミングスクールの名誉会員か何かにしてもらって、ダイエットがてらちょこちょこ泳ぎにいきたいなと思っています。