銀の坂井が見せた“根性レース” 「200バタ第一人者」瀬戸への挑戦状

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フェルプスをあと一歩まで追い詰める

銀メダルを獲得した坂井(左)。終盤の追い上げは鮮烈なインパクトを残した 【Getty Images】

 そのすさまじい追い上げに大観衆が沸いた。残り50メートルで「水の王者」ことマイケル・フェルプス(米国)がトップにつける中、6位でターンした坂井聖人(早稲田大)が一気に加速する。前を泳いでいた瀬戸大也(JSS毛呂山)やチャド・レクロー(南アフリカ)、タマシュ・ケンデレシ(ハンガリー)をかわし、最後はフェルプスをも抜き去りそうな勢いだった。結果的にわずか0.04秒及ばなかったものの、初出場の五輪で銀メダルを獲得した21歳が放ったインパクトは鮮烈だった。

 このメダルの価値がどれだけ大きいかは、男子200メートルバタフライに出場したメンバーを見れば一目瞭然だ。フェルプスはこの日獲得した2つを含めて五輪通算21個(史上最多)の金メダルを保持する伝説的な選手。4位のチャド・レクロー(南アフリカ)はロンドン五輪の同種目で優勝し、5位の瀬戸は400メートル個人メドレーで2013年、15年と連覇を飾っている。加えて言えば、7位のラースロ・チェー(ハンガリー)も昨年の世界選手権を同種目で制した。

 この豪華メンバーの中では、いくら伸び盛りの坂井と言えどメダル争いに加わるのは厳しいように思われた。事実、予選と準決勝はいずれも全体6位。「(1分)54秒台を出したと思ったのに、55秒3だった」(準決勝後)と、体の感覚とタイムが一致せず、首をひねっていた。

 決勝当日、坂井はコーチ陣と相談してこれまでとは違った行動に出る。あえて午前中の練習を回避したのだ。坂井を指導する奥野景介コーチは、この意図をこう説明する。

「今大会は準決勝と決勝のレースが夜の遅い時間にあります。夜中に真剣なレースをやるというのはなかなかないので、練習で対応させるように考えていたんですけれど、それが(心理的に)重さを感じさせる環境だったのではないかと思います。それを踏まえて、今日は15時くらいまでだらだらとさせて、夜に力が出るように、1日の時間を半日かけて夜型にスイッチしようというのが昨日からの試みでした」

瀬戸は「一番尊敬できる先輩」

坂井(右)は早稲田大学で瀬戸の1年後輩にあたる(写真は4月の日本選手権) 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 坂井は現在21歳で、早稲田大学で瀬戸の1年後輩にあたる。瀬戸は本職こそ個人メドレーだが、バタフライを得意としており、200メートルに関してはリオデジャネイロ五輪の時点で日本人トップに君臨していた。昨年の世界選手権で、坂井は4位に入り、6位の瀬戸を上回ったものの、日本の200メートルバタフライと言えば「瀬戸が一番手」というのが関係者共通の認識だった。

 坂井にとってはそれが悔しかった。瀬戸のことは「一番尊敬できる先輩」として慕っているが、アスリートとしては誰にも負けたくない。取材対応では、常に屈託のない笑顔を浮かべる好青年も、胸の内には闘争心を秘めている。

 瀬戸は、坂井についてこう評する。

「聖人は淡々と頑張るやつです。礼儀正しいし、しっかりとした後輩で頼もしいですね。選手としてはすごく根性があります。持久練習をすると僕に食らいついてきたり、きついときに僕や周りの人間が『誰々に負けるぞ』とやじを飛ばしたりすると、スピードが一気に上がる。そういう根性があるのが彼の良いところだと思っています」

 奥野コーチは、その強い意志を称賛する。

「くじけそうになったとき、気が緩みそうになったとき、必ずその振り返りをしたり、目標を再確認するんですね。そうした丹念な確認と意志を持続する強い気持ちが、彼を支えているんだと思います」

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