日本は3枚看板からの依存脱却なるか? 鍵を握る清武・原口・金崎の可能性

元川悦子

3枚看板の得点力が光った2連戦

アフガニスタン・シリアとの2連戦では岡崎、本田、香川の「3枚看板」の得点力が光った 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

「たくさんの人のおかげで100試合に出場することができたので、ホントに感謝の気持ちを持って頑張りたいと思います。まだまだ貪欲な29歳、これからも頑張ります」

 29日に行われた2018年ワールドカップ(W杯)アジア2次予選最終戦・シリア戦。香川真司の2得点などで5−0と勝利し、グループE首位通過を決めた後、日本代表100キャップを達成した岡崎慎司のセレモニーが行われ、埼玉スタジアムの大観衆に向けて本人が照れ臭そうにスピーチした。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督から「100」と書かれたユニホームが贈られ、全員から胴上げされる場面もあり、チーム全体が最終予選、そしてロシア本大会へ士気を高めていた。

 この岡崎を筆頭に、今回のアフガニスタン・シリアとの2連戦では本田圭佑、香川を含めた「3枚看板」の得点力があらためて光った。岡崎はアフガニスタン戦の前半43分、反転しながら清武弘嗣の縦パスを受け、相手を股抜きし左足で決めるという技ありの一撃で代表通算48得点目を記録。シリア戦では惜しくもゴールはなかったが、鋭い飛び出しと屈強なフィジカルを生かしたボールキープで起点を作り続けた。

 本田はアフガニスタン戦では温存され、出場はシリア戦1試合のみにとどまったが、要所要所で攻守のバランスを取りながらゴールに迫った。指揮官が求めるFWとしての動きには物足りなさが残ったものの、後半41分には香川の浮き球のクロスからダメ押しとなる3点目をヘディングでゲット。予選連続ゴール記録を6に伸ばすとともに、代表通算得点を35にした。

 そして香川も、途中出場だったアフガニスタン戦では躍動感の不足が懸念されたが、シリア戦ではその評価を見事に覆した。華麗かつ豪快な胸トラップから反転し左足シュートを含む2ゴールで通算得点数を25へと引き上げ、10番の前任者である中村俊輔の24点を一気に超えた。さらに先制点となったオウンゴール、本田の3点目もアシストするなど、久しぶりにトップ下で本来の輝きを示すことに成功した。

 こうした実績とピッチ上での存在感を見ても分かる通り、日本の攻撃は3本柱への依存度が極めて高い。アルベルト・ザッケローニ監督が就任した10年から6年あまり、この傾向が続いている。その間にハビエル・アギーレ、ハリルホジッチと指揮官は代わったものの、新たな得点源は思うように台頭しなかった。

 特にハリルホジッチ体制発足後は、若い世代の底上げに重点が置かれるようになり、宇佐美貴史や武藤嘉紀ら90年代生まれのアタッカーにたびたびチャンスが与えられている。だが、宇佐美も武藤もまだ2点止まり。シリア戦を視察した日本サッカー協会の西野朗新技術委員長も「宇佐美は本当に素晴らしいシュート力を持っているので、大きな試合で彼の良い部分がもっと出てほしい」となかなかブレークし切れない教え子に注文をつけていた。

 3枚看板の存在はすでに世界中に知れ渡っているだけに、最終予選から先はもっとマークが厳しくなるだろう。16年リオデジャネイロ五輪出場権を逃したなでしこジャパンの二の舞にならないとも限らないだけに、今後は攻めのバリエーションをいかに増やしていくかが日本代表の最重要テーマの1つと言っていい。

手応えをつかんだ清武とインパクトを残した金崎

清武(左)はアフガニスタン戦の試合後に、長友(右)に「彼がいたからリズムを作れた」と言わせるほどの働きを見せた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 そこで注目すべきなのが、今回の2連戦で攻めに新たなアクセントをもたらした清武、原口元気、金崎夢生の3人だろう。彼らはいずれもアフガニスタン戦に先発し、シリア戦では途中出場。ハリルホジッチ監督が「準主力」と位置づけ始めている存在だ。

 アフガニスタン戦の日本は中盤をダイヤモンド型にした「4−4−2」にトライ。金崎は岡崎と2トップを形成し、清武はトップ下、原口は右MFに陣取った。

 序盤は相手の守備ブロックの攻略に苦しみ、前半30分くらいまでは苦戦を強いられたものの、徐々に清武にボールが入り始める。ハノーファーで10番を背負う、絶対的司令塔はクラブでのプレー同様に、緩急をつけながらのゲームメークと小気味良いパス出しで起点を作り、結果的に1得点2アシストの大活躍を見せた。長友佑都も「キヨがすごく良かった。彼がいたからリズムが作れていた。ハノーファーで重圧のかかる中でプレーしていることが、自信になっているんじゃないかな」と言わしめる輝きを放った。香川が投入された後半19分以降は左サイドへ移動したが、周りを生かす意識は変わらず、お膳立てを第一に考える彼らしい仕事を最後までしっかりとまっとうした。「代表で久しぶりに楽しくやれた」と本人も手応えと自信をつかんだ様子だった。

 金崎もシュート9本を打ちまくる強心臓ぶりを披露した。滝川第二高の先輩・岡崎を「夢生が本当に貪欲すぎるから」と笑わせたほどだった。最後の最後にようやくゴールという結果を出し、ハリルホジッチ体制初招集だった昨年11月のシンガポール戦(3−0)に続く得点で、目に見えるインパクトを残した。

 ご存じのとおり、彼は13年夏から1年半の間、ポルトガル2部のポルティモネンセでプレーしていた。そこでボランチからFWにコンバートされ、スタイルが激変。体を張ったポストプレーやゴール前の泥臭さを前面に出すようになった。「日本はパンパンとパスを回して、展開を速くするようなスタイルだけれど、向こう(ポルトガル)は1対1でガッツリキープするスタイルが多いから、そこで鍛えられたのは事実だと思う。とにかく勝ちたくて、そのためにはどうしたらいいかを考えて、体をぶつけてキープして戦うということを一生懸命やってきた」と本人も語ったが、今の日本サッカーに足りない球際の厳しさや局面での勝負の重要性を、金崎は改めて示したと言っていい。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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