日本は3枚看板からの依存脱却なるか? 鍵を握る清武・原口・金崎の可能性

元川悦子

ボランチでの起用に可能性を感じさせた原口

本職ではないポジションで起用された原口だが、今後に向けて可能性を感じさせるプレーを披露した 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 一方、原口は不慣れなポジションで起用され、酒井宏樹との右の縦関係ではギクシャクした様子もかい間見えたが、献身的な守備とサポートでチームに貢献。左MFの柏木陽介とポジションチェンジを繰り返しながら、機を見て前線へ飛び出し、クロスバー直撃の惜しいシュートも放った。「自分は2トップとキヨ君(清武)のサポート、ボールを拾う役割が基本だった。本職じゃないポジションで使われることはヘルタでもあるし、1つのオプションとして考えてもらえたらいい」と本人も黒子中心の役割を前向きに捉えていた。

 続くシリア戦では、山口蛍の負傷によって、まず原口が後半13分からボランチで出場。昨年6月のシンガポール戦(0−0)でも、柴崎岳と代わった原口はボランチに近い役割を任されている。指揮官の中では「中盤なら何でもこなせるマルチプレーヤー」という評価なのだろう。この日も現在ブンデスリーガで3位につけている好調・ヘルタで磨きをかけたフィジカル的な力強さと守備力を見せつけ、危ない場面で体を張るとともに、状況を見ながら攻撃に絡んだ。こうした的確な判断力は、浦和レッズ時代とは比べ物にならないほど進化していた。後半アディショナルタイムにヘディングで奪った5点目も、打点の高さが印象的だった。アフガニスタン戦と同じように、本職でない硬さがところどころであったのも確かで「ボランチ・原口」はまだまだリスキーなのかもしれないが、大いなる可能性を感じさせたのもまた事実である。

 金崎は後半33分に岡崎と、清武は40分に宇佐美とそれぞれに交代してピッチに立ったが、短時間の出場でも持ち味は出していた。シンガポール戦以来の1トップを務めた金崎は、とにかくアグレッシブにボールを追い、チャンスと思えば果敢にゴールへ飛び出す。日ごろ、鹿島アントラーズでは赤崎秀平と2トップを組んでいるが、1トップでも十分こなせるだけのポテンシャルは示していた。加えて魅力的だったのが「自分がやってやろう」という飽くなき野心。これについては常に献身的な先輩・岡崎を超えるものがあり、見る者にもワクワク感を与えた。

 左サイドに入った清武は、本田と原口の得点に至るパスを見せるなど、鋭い戦術眼で攻めのバリエーションを確実に広げていた。自らドリブルでこじ開けてフィニッシュを狙っていくタイプの宇佐美が岡崎・本田・香川と前線を形成すると、どうしてもゴール前が混雑しがちだが、清武の場合は、まずタメを作ってリズムを作るところからスタートするため、他の面々も思い切ってゴールに向かうことができる。香川も感覚的に共通するところがあってやりやすいはずだ。ハリルホジッチ監督はこれまで清武をトップ下専門と位置づけ、香川と競争させる方向に仕向けてきたが、今後は2人の共存あるいは併用を考えた方が得策だろう。

日本に新たな可能性をもたらした3人

2トップだけでなく、1トップもこなすなど対応力と柔軟性を見せた金崎  【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 このように清武・金崎・原口は2試合を通してチームに新たな可能性をもたらした。とりわけ清武はトップ下でもサイドでも使えることを証明するとともに、アタッカー的要素の強い香川とは違った持ち味を出せることをアピールした。むしろ本職のゲームメーカーを置きたいのなら、彼を選択する方がベターではないか。清武自身も岡崎、本田ら主力メンバーと実戦経験を積んで、コンビネーションを高めていきたいと思っているはずだ。今後はその時間をぜひ与えてもらいたい。

 金崎は2トップでも1トップでもこなすことができ、先発としてだけでなくジョーカーとしても力を出せる対応力と柔軟性を見せてくれた。この先、負傷離脱中の武藤や長身FWハーフナー・マイクらとの競争を強いられるが、現時点では岡崎に続く2番手の地位を勝ち取ったと言っていい。彼も清武同様、本田や香川ら主力とのプレー時間が少ないため、短期間で連係を深めていく必要があるが、ハリルホジッチ体制で3試合2得点という決定力はやはり大きな魅力。ポルトガルでの経験を生かして、自分の武器をより突き詰めていくべきだ。

 そして原口はヘルタでのキャリアを最大限に生かして、中盤と前線の全てのポジションを平均以上のレベルでこなせる万能型プレーヤーへと変貌を遂げた。日本人離れした力強さと度胸は最終予選でも存分に発揮されるはずである。彼をどう使うかで日本代表の戦い方は大きく変わりそうだ。

 彼らが3枚看板を脅かすようになれば、ロシアへの希望の光が見えてくる。そうなるように自己研鑽(けんさん)を続けてほしいものである。

2/2ページ

著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント