日本の1位通過をどう評価するか? 指揮官の手腕と最終予選への課題

宇都宮徹壱

5ゴールで2位シリアを圧倒した日本

5−0でシリアを下し、日本はグループ首位で最終予選進出を果たした 【写真:ロイター/アフロ】

「非常に美しい夜だった。美しい勝利ができた。スペクタクルだったとさえ言える」

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の試合後の戦評は、このようなものであった。3月29日、埼玉スタジアム2002で行われたワールドカップ(W杯)アジア2次予選兼アジアカップUAE2019予選の最終節で、日本代表はシリア代表に5−0で勝利。試合前の時点で2次予選突破を決めていたとはいえ、2位シリアに4ポイント差をつけての首位突破、しかも27得点、失点ゼロでフィニッシュしたことについては実に喜ばしい(失点ゼロは他グループでは韓国のみ。得点は日本が3点多い)。2次予選の総括については後ほど触れるとして、まずはこのシリア戦を振り返ることにしたい。

 この日のスターティングイレブンは以下のとおり。GK西川周作。DFは右から酒井高徳、吉田麻也、森重真人、長友佑都。MFはボランチに長谷部誠と山口蛍、右に本田圭佑、左に宇佐美貴史、トップ下に香川真司。そしてワントップに岡崎慎司。システムはおなじみの「4−2−3−1」である。なお、この試合で代表100キャップとなる岡崎が、この日は長谷部に代わってキャプテンマークを付けた。対するシリアは、今回の来日メンバーはわずか17人。リストの空白に苛烈な国情が透けて見える。

 この日のシリアは、決してドン引きにはならず、中央をブロックでふさぎながらカウンターを繰り出す意図が非常に明確だった。そして前掛かりの日本に対し、素早いカウンターから数的優位を作るたびにヒヤリとさせられた。それでも先制したのは日本。前半17分、左サイドから香川がゴール前にシュート気味のクロスを供給。これをGKイブラヒム・アルメがパンチングで防ぐも、ボールは味方の顔に当たってオウンゴールとなる。その後も日本は、両サイドの崩し(特に左サイドの宇佐美が積極的だった)とテンポの良いパスワークからたびたびチャンスを作るも、相手のブロックに何度も阻まれ追加点を奪えず。前半の日本は、幾多のチャンスを作りながらオウンゴールの1点のみでハーフタイムを迎えた。

 日本の追加点が決まったのは後半21分。山口の負傷退場(原口元気と交代)、そしてシリアのミドルシュートがポストをたたくなど、嫌な流れが続いていた中、相手ペナルティーエリア内で本田が浮かしたボールに香川が胸トラップから反転して左足で見事なゴールを決める。さらに41分には、それまで2本のヘディングシュートを外していた本田が、香川のクロスから三度目の正直で3点目をゲット。さらにアディショナルタイムにも、香川と原口が相次いでネットを揺らし、終わってみれば5−0という圧倒的なスコアでシリアを退け、見事に2次予選を1位で通過することとなった。

初失点の危機と原口のボランチ起用

急きょボランチで出場した原口をハリルホジッチ監督は「かなり良いオプション」と評価 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 と、ここまで書くと、何やら日本が危なげなく勝利したように感じられるかもしれない。しかし実際には、2次予選でかつてないくらい失点の危機にさらされたのが、このシリア戦であった。むしろ、日本が5点を挙げたことよりも、あれだけのピンチを招きながら無失点に終えることができたことが、一番のトピックスであったと言ってよい。私が「やられた!」と思った瞬間は後半に集中しており、それは5回を数えた。

 後半17分、間合いを詰め切れずマハムード・アルマワスの強烈なミドルシュートを許したシーン(ポスト左をたたいた)。後半20分、自陣で長谷部がボールを奪われ、オマル・ハルビンのシュートを西川が防いだシーン。後半39分、アブドゥルラザク・アルフセイン、ムアイアド・アルアジャン、ナディム・サバグと立て続けにシュートを打つも、いずれも西川や長谷部が身をていしてブロックしたシーン。後半41分、至近距離からのアルフセインのシュートを西川がセーブしたシーン。後半44分、ラインが低くなったところで、アルアジャンのヘディングシュートを西川が止めたシーン。

 後半、シリアは10本のシュートを放っているが、そのうち6本は後半30分以降に集中していた。このバタついた状況について、ハリルホジッチ監督は「スペクタクルなプレーを意識しすぎて、攻撃のオーガナイズが少し崩れてしまい、そこを相手にうまく突かれてしまった」と説明している。選手側もその点は認めており、「ラインコントロールにしても、リスクマネジメントにしても、カウンターの守備に対しても、あまりにも雑な部分が多かった」と吉田が語れば、CB(センターバック)でコンビを組む森重も「もっとバランスを取れていれば、ああいう試合にはならなかった」と反省の弁を口にした。

 もうひとつ、この試合のトピックスを挙げておきたい。それは山口の負傷退場(空中戦で相手選手と激しく衝突。鼻骨骨折および左眼窩底骨折と発表された)に代わって、FW登録の原口がボランチで起用された件である。サイドのMF、もしくは前線が主戦場の原口だが、実は代表でのボランチ起用はホームでのシンガポール戦に次いで2度目である(この時は柴崎岳との交代)。また、アウェーのアフガニスタン戦では、酒井宏樹が退くと、右サイドバックにコンバートされている。もっとも、彼がさまざまなポジションで起用されてきたのは、決して「ポリバレントな選手だから」という理由ではなさそうだ。

 原口のボランチ起用について、ハリルホジッチ監督は「かなり良いオプションだと思う。長谷部が守備の修正を全部やってくれたので、もうひとりは前で働ける選手が必要だった」と語っている。当人も「スプリントしていくのが自分の良さなので、(この試合で)出せて良かった」とまんざらではない様子。これらの発言から類推するに、指揮官は「縦への推進力のあるボランチ」を求めており、それを原口に期待しているのではないだろうか。今のところこのポジションは、長谷部を軸に、山口、柴崎、さらには柏木陽介や遠藤航が試されているが、ここに原口が加わることで生まれる新たな競争と活性化を期待したい。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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