中村俊輔が抱く危機感と責任感 プロ20年目、前進し続ける司令塔

元川悦子

鳥栖戦で勝ち点を7に積み上げ、5位に浮上

第2節のアビスパ福岡戦ではJ1通算21点目となる直接FKによるゴールを決め、“中村俊輔健在”を強く印象づけた 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 雨上がりのニッパツ三ツ沢球技場で3月19日の13時にキックオフされた、J1第4節の横浜F・マリノスvs.サガン鳥栖戦。開始早々の3分、横浜FMのセンターバック、ファビオの出したスルーパスに新進気鋭の点取屋・富樫敬真が抜け出し、GK林彰洋との1対1を制して冷静に右足でゴール。横浜FMが早々と先制点を奪うことに成功した。

 実はこの場面では、中村俊輔の肩にボールが当たって富樫にラストパスが供給されており、オフサイドと判定されてもおかしくない微妙な1点だった。中村本人も「肩だね。アシストだね」と冗談交じりにコメント。今季から鳥栖を率いるマッシモ・フィッカデンティ監督は「オフサイドだった」と怒り心頭だったが、一度認められた得点は覆らないのがサッカーだ。

 ラッキーな形から手に入れたゴールで勢いに乗った横浜FMはその後、谷口博之に同点ゴールをたたき込まれたが、最終的には中町公祐のミドル弾で2−1と鳥栖を突き放した。この日の勝利で2勝1分け1敗の勝ち点7となり、5位に浮上。首位の川崎フロンターレとの勝ち点差はわずか3と、さらに上を狙える位置につけた。悲願のタイトル獲得に燃えるトリコロール軍団にとって、悪くない序盤戦となっている。

 2月27日に行われた開幕節のベガルタ仙台戦直前にインフルエンザにかかり、出遅れた“エースナンバー10”も、いち早いリカバリーを見せている。5日の第2節・アビスパ福岡戦では伝家の宝刀である芸術的FKがさく裂。J1通算21点目となる直接FKによるゴールを決めたことで、“中村俊輔健在”を強く印象づけた。

走れるゲームメーカーへと変ぼう

今季ここまで走行距離はチーム一。「走れて守れてボールを追えるゲームメーカー」へ変ぼうを遂げている 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 第2節以降、中村は90分フル出場を続けている。特に際立っているのが走行距離だ。福岡戦の12.091キロに始まり、アルビレックス新潟戦は12.683キロ、鳥栖戦も12.215キロといずれもチーム最多。直近の鳥栖戦では、後半アディショナルタイムになっても最前線からハイプレッシャーをかけにいき、守備意識の高さと献身的な姿勢を見せ続けた。かつて「ナカムラはスライディングタックルの仕方を知らない」と揶揄(やゆ)されたレッジーナ時代とは別人と言ってもいいくらい、今年38歳を迎える中村は「走れて守れてボールを追えるゲームメーカー」へ変ぼうを遂げているのだ。

「俊さんと佑二さん(中澤)は年齢が30いくつだからといって、絶対に練習から手を抜かないし、試合でも一番走っている。僕ら若手も『やらなきゃいけない』という気持ちにさせられる」と18歳の右サイドハーフ・遠藤渓太も語る。

 このようなハードワークを体現する原動力に「危機感」があると中村本人は言う。

「サッカーに対するモチベーションは若い頃と全然変わらないけれど、やっぱり危機感は増すよね。1回のプレーで引退に近づくんだから。年俸だって下げられるし、クラブ側にしてみたらクビにもしやすくなる。ベテランっていうのは、それが当たり前のことだから。正直、今季開幕の時もヤバかった。アビスパ戦のFKはたまたま。ホント危なかった」

 とはいえ、横浜FMの攻守両面のスイッチを入れる役割を中村が担っている事実は今季も変わらない。共に2列目を形成する遠藤も「俊さんが低い位置に落ちたら、自分や学君(齋藤)がタテへ仕掛けていく。そうすれば俊さんがそこにピタッといいボールをくれる。俊さん主導というか、俊さんがどう動くかで、自分の動きを変える感じです」と司令塔に絶対的信頼を寄せている。

 それは対戦相手にもよく伝わっている。鳥栖のトップ下を担う若きファンタジスタ・鎌田大地も「俊輔さんはものすごくうまくて視野が広くて、あれだけ(チーム内で)自由に動かしてもらっている。ホントにあの人がゲームを作っているという感じがした」と脱帽していた。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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