中村俊輔、いまだ衰えぬ進化への意欲=幾多の挫折を乗り越え、2度目のMVPに
ピッチに突っ伏して号泣
優勝を逃し、ピッチに突っ伏す俊輔。どんな時でも気丈に振る舞う男が激情をあらわにした 【写真:アフロ】
タイムアップの笛が鳴り響くと、背番号25をつける横浜FMのキャプテンはピッチに突っ伏して号泣した。サポーターへのあいさつもスタッフに支えられて行うのが精いっぱい。どんな時も気丈な男がここまで激情をあらわにするのは初めてのことだった。
「(涙の理由は)ファンの方と応援してくださっている方に申し訳ないっていう気持ちだけだった。今日は何としても決めるんだって思って一番集中してパワーを使った。それはキャプテンだからもちろんなんだけど、それでも結果が出ない。この結果はもしかしたら今後に響くかもしれないね……」
試合後、気を取り直して報道陣の取材を受けた俊輔は、含みを持たせた言い回しをした。このまま気力を落としてキャリアをフェードアウトさせる方向に進むのではないか……。そう危惧させるくらい、9年ぶりのJ1タイトル獲得を逃したことに激しいショックを受けていた。
35歳のベテランMFの今季に懸ける思いはそれほどすさまじいものがあったのだ。
俊輔が掲げた2つの目標
そんな俊輔にチームメートも呼応し、今季の横浜FMは開幕6連勝という最高のスタートダッシュを切った。彼を筆頭に、ドゥトラ、マルキーニョス、中澤佑二と30代後半の選手が多いため、ケガや疲労蓄積も懸念されていたが、ベテラン勢は猛暑の夏場もコンディションを落とすことなく安定感を維持した。持ち前の攻撃のアイデアやひらめきはもちろんのこと、FKやパスの精度の高まり、前線から激しくボールを追う運動量や走力もアップした。俊輔自身、「若い時みたいにトップ下で気分よくやらせてもらっているのがすごく大きいね」と笑顔をのぞかせつつ、水を得た魚のようにイキイキとしていた。
「今季はチームのバランスを保ちやすかった。後ろにカンペイ(富澤清太郎)と中町(公祐)がいて、自分が引けば中町が前に行ってくれる。サイドにはドリブルで突破してくれる学(齋藤)がいて、何気に兵藤(慎剛)がつなぎ役でいてくれる。自分が前に出ればマルキ(マルキーニョス)が2トップっぽくなって一緒に追いかけてくれる、適当なクロスを出せばマルキが首一本で入れてくれる。そういうふうにいろんなことがバチッとかみ合った。自分に合うサッカーをさせてくれた味方には本当に感謝してます」という俊輔は仲間との最高のハーモニーに満足感を深めた。
10月19日のサンフレッチェ広島との上位対決を制し、佐藤寿人に「今年の俊さんがチームにもたらしている影響力は非常に大きい」と言わしめた時点で、俊輔は優勝という1つ目の目標達成を確信したに違いない。次の10月27日の大分トリニータ戦で2ケタゴールというもう1つの目標を果たしたことで、なおさらタイトルへの集中を高めたはずだ。
まさかのアクシデントに見舞われ、本来のキレを失う
1週間弱の療養を経て退院し、11月20日の天皇杯・AC長野パルセイロ戦で公式戦に復帰したものの、好調時のキレと鋭さはすぐには戻らなかった。11月23日のジュビロ磐田戦に勝って栄冠に王手をかけたところまではよかったが、アルビレックス新潟と川崎とのラスト2試合は俊輔らしさが失われていた。「この2週間は苦しい道のりだった。そういうのは本当に初めて」と本人も振り返ったように、計り知れない重圧の中、創造性あふれるパス出しができず、FKも力なく枠を超えていく。俊輔が起点を作れなくなったことで、横浜FMの攻撃は単調になり、決め手を欠いた。彼は一言も発していないが、「もし病気にならなかったら……」と思わずにはいられなかっただろう。最終的に今季初の連敗を喫して首位の座から転げ落ちた川崎戦後の号泣には、そんな苦しさ、悔しさ、空しさが入り混じっていたはずだ。