重力波のような重派コパノリッキー 「競馬巴投げ!第116回」1万円馬券勝負

乗峯栄一

死ぬまでに一度は言ってみたいセリフ

[写真1]デビューから6戦5勝3着1回、関西の新星モーニン 【写真:乗峯栄一】

 ネットをあちこちクリックしていたら「死ぬまでに一度は言ってみたいセリフ」というページに出会う。

 たとえば「オレの屍(しかばね)を越えて行け!」が出てくる。

 確かにこんなセリフ、言ったことがない。映画なのでどこまで本当か分からないが、1967年の岡本喜八版と昨年の原田眞人版「日本のいちばん長い日」にはしっかり出てくる。1945年夏、玉音放送の前日、最後まで本土決戦を主張する陸軍若手将校たちが詰め寄ってくるのを阿南(あなみ)陸相が両手を広げて止める。

「大御心(おおみこころ)は既に定まった。それでも逆らうというのならオレの屍を越えて行け!」と一喝し、その場で腹を切る。

 つまりこのセリフを言うにはそれなりのシチュエーションが必要だということだ。「それでもこの競馬予想に逆らうと言うならオレの屍を越えて行け!」とTシャツをめくり、鉛筆削りのナイフを手に持ったとしても「そんなもん、なんぼでも越えたるわ」と、あいつらは我が皮下脂肪の腹をドドドトと踏みつけて行くに違いない。悔しい。

騎手に調教師、キミら長距離タクシー乗りすぎや

[写真2]モーニンと同厩舎のベストウォーリア、こちらも有力馬の1頭だ 【写真:乗峯栄一】

「その小切手に好きな金額を書きなさい」というのも出てくる。

 もちろん今までの生涯、一度も言ったことがないし、言われたこともない。大体小切手という物を見たことがない。何? 小切手って? 金額書いて銀行行けばすぐに現金くれるの? でも預金が50万なのに小切手に「1億」とか書いてあったらどうなるの? 分からん。手形みたいに、小切手にも“不渡り”ってのがあるのか? そういえば“手形”というのも、現物を見たことがない。馬券なら死ぬほど見てきたが。貧しい人生だなあ。

「前のクルマを追ってくれ」というのも出ている。

 父を殺した容疑者の車が偶然目の前を通り過ぎると、決まってその直後を流しのタクシーが通りかかる。慌てて止め、必死の形相で「前のクルマを追ってくれ」と叫ぶ。たまにタクシー運転手が「お客さん、危ないことはゴメンだなあ」と言ったりするが、そういう時は「カネはいくらでも出す」と言えば大抵カタがつく。

 サスペンス・ドラマで毎度お馴染みのこのセリフ、確かに実際言ったことはない。「お客さん、どちらまで?」と運転手に聞かれて「どこでもいいの。愛と快楽の溢れる所まで」と桃井かおりのようなことも言ってみたいが、これも経験がない。逆にタクシー運転手の方に聞いてみたい。「前のクルマ追ってくれ」とか「愛と快楽の溢れる所まで」なんて言われたことがあるのかどうか。

 うちの家は伊丹空港に近いが、タクシーに乗ると時々聞かされるのは「あ、たまにいますね。伊丹空港から滋賀の栗東まで言ってくれっていうお客さん。片道3万ぐらいになりますからね。驚いて後ろ見ると、だいたい騎手か調教師さんて分かりますね」

 あのね、騎手に調教師、キミら長距離タクシー乗りすぎや。料金メーターが千円超えたら後部シートでソワソワする豊中辺りの一般客が貧相に見えるやろ?

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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