重力波のような重派コパノリッキー 「競馬巴投げ!第116回」1万円馬券勝負

乗峯栄一

口では嫌がっても体は正直じゃのう

[写真3]芝で重賞2勝のパッションダンス、2度目のダートでどう変わるか 【写真:乗峯栄一】

「口では嫌がっても体は正直じゃのう、フフフ」と、これも個人的に大いに注目した。

 確かにアダルトビデオではお馴染みのこのセリフ、実際には一度も言ったことがない。
 あ、でも自分一人のときは言ったことがある。

 誰でも多感な青春時代にはこういうことがあったはずだ。夏の日、下宿の部屋で両手を頭の後ろに組んで寝っ転がっていると、ふとしたはずみで目の端に陰毛が見える。しかしよくよくチェックしてみると、それはTシャツの袖口から見える自分の脇毛だった。元来毛の薄い方なのでまだらにしか生えていないが、それがかえって卑猥さを増している。こんなに身近なところにこんなにイヤラシいものがあったのかとある種の感動すらおぼえる。しかし問題はここだ。「何だ、オレの脇毛か、つまらん」と言ってまた横になるか、「女の股ぐらがオレの脇の下に付いていると考えられなくもない」という建設的提案をするかで人生は大きく変わる。

[写真4]フェブラリーS3連覇を狙うコパノリッキー(昨年チャンピオンズC時撮影) 【写真:乗峯栄一】

 真夏なのに雨戸を閉めて部屋を真っ暗にする。手鏡を正面に置き、その鏡の向こうから蛍光スタンドがちょうど脇の下を照らすようにセット、手を後頭部に置いてちょうどマリリン・モンローのポーズをとる。脇の下の“陰毛”にはマジックで一本太い縦線を入れておく。手鏡の中に“線入り陰毛”が浮かび上がる。「ねえちゃん、ススキっ原やでェ」「お願い、やめてェ」「やめてって言われてもな、やめられへんのやで。あんたのお父ちゃんが借金作り過ぎたんが悪いんや、可哀想にな。でも体ってのは正直なもんやな、ヒヒヒ、なあ、ねえちゃん」とマジック線を中心に擦る。こういう時には“悪徳金貸し”と“非運の娘”の二役が自然に演じられる。ただ、あまりに不自然な体勢なので、すぐに腕がツるという難点はあったが。

 でも、確かに女性に対しては言ったことがない。なぜだろう? 引っ込み思案な我が性格が悪いのか? でも大人の男のうち何%ぐらいが実際に言ったことがあるんだろう? また大人の女のうち何%ぐらいがこのセリフを言われたことがあって、さらにそのうちこの言葉で余計に燃え上がったというのは何%ぐらいなんだろう? 内閣府統計局は、愚にもつかない質問じゃなくて、こういう有意義な統計を取りなさい。

 各家庭を回り「奥さんは“口では嫌がっても体は正直じゃのう”って言われたことがありますか? え、ある! でそのときは(1)悔しい (2)普通 (3)更に燃え上がった、この三つのうちのどれですか?」と聞いて回りなさい。ぼくの予想では◎(3)50%、○(2)30%、×(1)20%なんだけど。

アインシュタイン相対性理論が競馬予想を変革する

[写真5]アスカノロマンは年明けの東海Sが強い勝ちっぷりだった 【写真:乗峯栄一】

 橋下徹元大阪市長は新入役所員への訓辞のとき、居眠りしている者を見つけ「前から10番目の、そうだ、キミだ、立ちなさい! トップが話しているときに居眠りするんじゃない」と新入役所員を起立させ“立たされ小僧”の姿はTVにも出た。そういえば生前の立川談志も自分の独演会で居眠りする客を見つけ「テメエ、このやろう」と怒鳴り、憤懣ぶちまけて自ら高座を降りた。この「ひとが話してるときに寝るんじゃねえ」はネット・ページには出ていなかったが、ぼくの場合、一生に一度でいいから、言ってみたいセリフだ。

 15年ほど前、大阪スポニチの新人研修に一度だけ呼ばれた。「何を話してもいい」と人事部長が言うので「着順判定速度が光速を越えれば百発百中の的中になる。どうやって判定速度を光速を越えさせるかが、これからの予想の最大テーマだ」という“究極競馬予想理論”を、模造紙に馬の雁行(がんこう)状態の絵と、アインシュタイン特殊相対論ローレンツ収縮の数式を書いて説明することにした。

 先日、アメリカの科学者がアインシュタインの予言した重力波を観測したと言って話題になった。いずれノーベル賞を受賞するのかもしれない。しかし日本には「アインシュタイン相対性理論が競馬予想を変革する」と予言・実証した者がいる。そっちの方はどうしてちっとも話題にならないんだろう。

 確かに途中から自分でも何を喋っているのか分からなくなり、シドロモドロになり「だからね、ここがね」と模造紙押さえて新入社員を振り返るたび一人、また一人と討ち死にしていくのが見える。それでも「要するに、これがね」と最後のまとめに入ろうとしたとき人事部長の首も垂れたのを確認する。

「こんな話でどうも」と泣きそうな声を出して模造紙を片付けに入った。「居眠りしてる、そこのキミ、立ちなさい、名前は何だ」と一生に一度でいいから、そんなことを言ってみたい。

[写真6]3年前のフェブラリーS勝ち馬グレープブランデー 【写真:乗峯栄一】

 5年ぐらい前、梅田Gate.Jで皐月賞予想やったときも涙が出た。我が予想印がモニターに大映しになった途端「えー! アホかいな」とヤジが出る。居眠りよりもっとキツい。でもぼくの場合「聞きたくないヤツは出て行け」とは言えなかった。「え? どこがアホみたいなんですか?」と丁寧に聞き返す。「その本命印やがな」とそのオジサンは堂々と答える。その堂々と「アホかいな」と言える態度に、オレもあんな風に生きてみたかったと、かえって反省までした。

 でも一日後「我が◎ゴールドシップ」はしっかり証明された。予想のヤジは一日で称賛に変わる。変わると思ったが、日曜に梅田WINS行ったって何にも変化はない。あの“アホかいな”オジサンだって「ヤジったオレが悪かった」などと反省してはいない、きっと。前日のことなんか、きれいさっぱりに忘れているんだろう。悔しい。

 判定速度が光速を越えて「あの時の乗峯、いいこと言ってたなあ」と称賛される日はいつか来るだろうか。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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