馬券アレルギーのための有馬アルバート 「競馬巴投げ!第112回」1万円馬券勝負

乗峯栄一

「なおすけ」と言えばゴールドシップ

[写真1]戸隠そば老舗「なおすけ」、この名前を見て思うのはゴールドシップである 【写真:乗峯栄一】

 年の瀬が押し迫り、寒さが染みこんでくると、いよいよ有馬記念である。

 有馬記念とは、つまり、赤穂浪士討ち入りの積年の恨みと、クリスマスの奇跡、この二つが集まったものだ。

 忠臣蔵討ち入りといえば、集合場所ともなり、また浪士の一人、杉野十平次が変装して俵星玄蕃に教えを乞うたとも言われるソバ屋が付きものだが、このソバ屋について少し言いたいことがある。

 ソバが好きで、けっこう日本各地のソバを食べ歩いている。

 先日も長野戸隠(とがくし)へ行った。「日本三大ソバ」(誰が名付けたか知らないが、出雲ソバ、岩手わんこソバと並ぶ)の一つと言われる。

[写真2]「日本三大ソバ」の一つと言われる戸隠そば 【写真:乗峯栄一】

 屏風岩のよう険峻な戸隠連山だが、その岩肌の所々に山岳修験者が開いた神社が点在している。この荒れた山地で作れるものといったらソバしかない。だから、各社の前にはソバ店が開かれ、それが戸隠詣での人々の評判になって、「戸隠といえばソバしかない」というようなことになっている。山中全部合わせるとおそらく百店以上のソバ店があるように思えた。

 その一番上、奥社と呼ばれる鳥居の前に「なおすけ」という老舗がある。山の下から順にそば店巡りをする観光客が“とどめ”で食べる名店だ。しかし「なおすけ」という店の大看板を見上げて、ぼくは何を思ったか。もちろん「ゴールドシップ」である。もう、これは条件反射だ。でもソバ客は別に有馬記念の話をするでもなく、宝塚記念の出遅れの話をするでもなく、ごく普通にソバを食べて「うまいなあ」などと言い、この「なおすけ」のある鳥居から奥社までの道の険しさなどを話している。ソバ客は「なおすけ」に特段こだわってはいない。([写真1、2])

ソバ屋共通の貼り紙、これは何だろう?

[写真3]ゴールドシップの“フェラーリ・ポーズ”は吉兆のような気がする 【写真:乗峯栄一】

 でもここで書きたいのはそれではない。

 この戸隠ソバ「なおすけ」もそうだし、南部杯の前に寄った花巻わんこソバ屋、ダービーの翌日行った調布深大寺ソバ屋、しょっちゅう通う梅田や、地元豊中のソバ屋でも共通した貼り紙がある。

「当店では、ソバ・アレルギーの方へのそば提供は控えさせて頂いております」

 これは何だろう? 一体どういう状況をイメージしているのだろう。

 ある日「オレ実は“ソバ・アレルギー”なんだ。でも今日はソバを食う」とマナジリを決した男がやってくる。

「オレはソバ食うと湿疹は出るし、熱は出るし、呼吸困難になることだってある。でも今日は死ぬ気で来た。ざるソバくれ」と注文する客に対して「ごめんなさい、当店では、ソバ・アレルギーの方にはソバは出さないことにしているんです」と断るということか。

 ソバ・アレルギーなのに「えーい、ソバ食って死んでやる」と叫ぶ自暴自棄の客に対して、自殺の幇助はしません、自殺は神の思し召しに反しますとか、そういう「自殺、思いとどまれ!」という公共広告のような趣旨の貼り紙なのだろうか。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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