【月1連載】ブンデス日本人選手の密着記

「チームを勝たせるために僕がいる」 “気を抜かない男”堂安律の強烈な自負と執着心

林遼平

1-2で敗れた第19節のバイエルン戦でも、堂安は相手のわずかな隙を突こうと90分間ハードワークを続けた。68分にはCKから反撃のゴールをアシストしている 【Photo by Alex Grimm/Getty Images】

 堂安律、板倉滉、伊藤洋輝ら日本代表の主力クラスを筆頭に、2024-25シーズンも多くの日本人プレーヤーが在籍するドイツ・ブンデスリーガ。彼らの奮闘ぶりを、現地在住のライター・林遼平氏が伝える月1回の連載が、この「ブンデス日本人選手の密着記」だ。第6回の主人公は、間もなくヨーロッパに渡って丸8年となる堂安。今や押しも押されもしないフライブルクの大黒柱は、ウインターブレイク明けから調子の上がらないチームを苦境から救い出すべく、もがき続けていた。

自然と拍手が出た堂安のスライディングタックル

 ウインターブレイク明け、フライブルクは難しい時間を過ごしていた。1月11日のホルシュタイン・キール戦(第16節)こそ勝利したが、この試合では3点リードのゲーム終盤に2失点を献上。しこりが残るような終わり方だった。嫌な予感は当たり、次のフランクフルト戦は4失点を喫して大敗。攻守にリズムの悪さを感じさせる戦いで、苦しい状況にあることがピッチに反映されていた。

 迎えた1月18日の第18節シュツットガルト戦もセットプレーを中心に前半だけで3失点を喫した。直近2試合のパフォーマンスを含め、守備に重心を置きながら対応したものの、もったいない形で失点を重ねることに。後半のスタートから気持ちを入れ替えて攻勢に出たが、なかなか得点が奪えないと、80分に4失点目を喫して万事休す。ピッチ上の選手たちからは、明らかに反撃に出るパワーがなくなったことが感じられた。

 ただ、この状況下でも勝ち点獲得のためにアグレッシブな姿勢を貫き続けた男がいる。フライブルクの攻撃の要を担う堂安律だ。

 残り10分で4点差の状況。正直、足が止まってもおかしくない展開だった。それでも、失点後の最初のプレーから積極的に相手に向かってチェイシング。チームメイトの動きが止まりつつある中、1人で二度追いしてスライディングからボールを奪取したシーンにはおのずと拍手が出た。

 どんな状況に陥ったとしても勝負を捨てたりしない。”何か”を起こすために必死にもがく堂安の姿に、見ているこっちが奮い立たされた。

日本代表でそんなことをする選手がいたら…

完敗を喫したシュツットガルト戦でも、現地メディアから平均点に近い評価を得た堂安。どんな状況に置かれても決して気を抜かず、最後まで足を止めない 【Photo by Marijan Murat/picture alliance via Getty Images】

 一方で、周りの動きの少なさも気になった。日本人を贔屓(ひいき)するわけではないが、フライブルクに勝負を諦めていない選手が他にいたかと言ったら怪しいレベルだった。現地メディア『キッカー』も、この試合における採点でGKと堂安だけを平均点に近い「4」の評価(最高が1、最低が6)にしているが、それが納得できるくらいチームメイトとのパフォーマンスにギャップがあった印象だ。

 試合後、4失点目を喫した後に周りの動きが減ったことに対する疑問を問うと、堂安は「そう見えているならそうだと思います。そういう選手が1人でもいるのはもちろんチームとして良くない」としつつ、最後にこう言い残した。

「もし日本代表でそんなことする選手がいたら怒りますけどね」

 日本代表のチームメイトである板倉滉は以前、「本当にサボらない。最後までハードワークできる選手」と評していたが、今季のパフォーマンスを見ていて感心させられるのは、堂安は本当に”気を抜かない”選手だということだ。

 状況に応じていい意味でうまくサボっているときもあるのかもしれないが、見ている側からすると、ピッチに立っている間、常にアグレッシブな姿勢を崩さない印象が強い。

 近年、ウイングバックで起用されたことをきっかけに守備面での対応が抜群に良くなっているのは周知の事実だが、それだけでなく攻撃面でもより結果を残すためのトライを続けている。数字には表れにくいが、逆サイドで味方がボールを持ったときに背後に抜け出す動きを狙ったり、巧みに立ち位置を変えてボールを受けたり、試合の中で足が止まっている時間が本当に少ないのだ。

 それでいて、状況を鑑みてチームメイトを呼び、意見をすり合わせながら改善を試みる姿勢も。ドイツでプレーする日本人選手の中でも飛び抜けてコミュニケーションの量が多く、そこからも勝利に対する執着が伝わってくる。

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著者プロフィール

1987年生まれ、埼玉県出身。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることに。帰国後、サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、東京ヴェルディ担当を歴任。現在はフリーランスとして各社スポーツ媒体などに寄稿している。2023年5月からドイツ生活を開始

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