「笑顔は伝染する」を合言葉に――スマイルジャパンが五輪切符を獲得 最多得点の輪島夢叶「めちゃくちゃ楽しかった」

沢田聡子

3戦全勝でミラノ・コルティナ五輪の出場権を獲得したアイスホッケー女子日本代表 【写真は共同】

「自信だけ足りなかった」スコアラー・輪島の開花

「めちゃくちゃ楽しかったです!」

 北海道苫小牧市のnepiaアイスアリーナで2月6~9日に行われた、アイスホッケー女子ミラノ・コルティナ五輪最終予選。3戦全勝で五輪の出場権を獲得したアイスホッケー女子日本代表(スマイルジャパン)のFW輪島夢叶(ゆめか)は、大会終了後に行われた氷上インタビューで、初めて臨んだ五輪最終予選をそう振り返った。

 今大会でのスマイルジャパンは、課題としてきた得点力において著しい進歩を印象付けた。その象徴が、今大会最多得点を記録した輪島だろう。初戦(対フランス)と第2戦(対ポーランド)で各2点、最終戦(対中国)でも1点と、全試合で得点を挙げた。

 飯塚祐司監督は輪島について、日本代表合宿が始まった4月から「自信を持ってホッケーをやるようになったな」と感じていたという。飯塚監督は、「元々得点能力はあった」と評価していた輪島が、決定的なシーンに持ち込めるようになったことで自信を深めたと分析している。

 ミックスゾーンで大勢の記者に囲まれた輪島は、「まったくスコアには絡めない選手だったので、本当に自信になりました」と述べ、言葉を継いだ。

「でもこの自信も皆さん、先輩たちのおかげでついたものだと思っているので、ありがたいです」

 輪島は、先輩やチームスタッフから、どんどん自信を持ってシュートを打つよう促されたと振り返り「『自信だけ足りなかったのかな』と今は思います」とも述べている。

 2022年北京五輪代表合宿にも参加していた輪島だったが、右手首を負傷し手術を余儀なくされたこともあり、五輪への出場は叶わなかった。4年前には辛い経験をした輪島が、ミラノ五輪が1年後に迫ったこの最終予選で、スコアラーとしての存在感を増したといえる。

誰でも意見を言い合える日本代表

主将の小池とともに、副将としてチームをまとめる細山田(奥) 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 苫小牧市出身の輪島は、22歳となった現在も苫小牧市を拠点とする道路建設ぺリグリンでプレーしており、前述の氷上インタビューで地元での大一番を振り返っている。

「応援しに来てくださっているたくさんの方々の前で、3戦全勝という形で終えられたのは嬉しいですし、個人的にもいい結果を残せたので。本当にありがとうございます」

 スマイルジャパンのオルタネートキャプテン(副将)を務めるDF細山田茜も、輪島と同じ道路建設ぺリグリンに所属する。輪島とは「AKさん」「ゆめか」と呼び合う仲だという細山田は、2018年平昌五輪、2022年北京五輪に出場した32歳のベテランDFだ。後輩の急成長を、細山田も喜んでいる。

「ここまで1年間で成長できるという部分は個人的にも驚きましたし、自信を持って彼女の実力を出し切れたことを、本当に嬉しく思います」

 日本代表主将のDF小池詩織も、細山田・輪島と同じ道路建設ぺリグリンでプレーする。日本代表最年長の細山田は、「仲のいい友達で、何でも言い合える関係」だという同年代(31歳)の小池と共に、北京五輪後に世代交代したチームをまとめてきた。

「北京後は若手がいっぱい入ってきて、コミュニケーションの部分ではなかなか苦労したのですが、個人的には寄り添うところ、若手の意見を尊重するところを毎年心掛けてきました。意見を言ってもらうことを心掛けてきて、今の段階では誰でも意見を言い合えるチームになっているので。小池キャプテンの指示もありながら、そこに注目してやってきました」

 その小池は、最終予選の約1カ月前に行われた日本代表メンバー発表会見で、「意外と今の若手には、オリンピック予選を楽しみにしている選手が多い」とコメントしていた。

「自信をつけさせるよう、『楽しもう』という姿勢で引っ張っていきたいなと感じています」

 開催国枠で出場した1998年長野五輪以降、五輪出場まであと一歩というところで涙をのんできたアイスホッケー女子日本代表は、2014年ソチ五輪最終予選でようやく悲願を果たした。当時は最終予選に臨む女子日本代表には悲壮感すら漂っていたが、今大会のスマイルジャパンは、冒頭の輪島の言葉が象徴するように、楽しく大会を戦っているようにみえた。

 細山田に過去の代表と今の代表の意識の違いを尋ねると、代表チームが行っているメンタルトレーニングで教わったという「笑顔は伝染する」という言葉について言及した。

「今回の最終予選に向けて、初めての選手も多かったので、緊張したり自信をなくしたりしてほしくないので、チームとしては明るく。メンタルの講義の中でも『笑顔は伝染する』という言葉をいただいたので、そこはもう本当にチームとして笑顔を心掛けてきた大会でした」

 自信から発生する自然な明るさにも見えたと重ねて問うと、細山田は「そうですね」と応じた。

「多分たくさんの選手が言っていると思うんですけど、ここ1年で毎月毎月合宿を重ねてきて。自分たちがやるべきことを、『もう本当にここで出し切るしかない』というところで、自信を持ってやっていくこと。多分、一人ひとりの選手が感じたところかなと思います」

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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