高校サッカー選手権準決勝、流通経済大柏vs.東海大相模を展望 驚異の選手層を誇る横綱vs地道な強化が実った新星の戦い

安藤隆人

両チームの主将、流通経済大柏の佐藤夢真(左)と東海大相模の長井隆之介(右)。どちらが決勝への切符を掴み取るか 【写真:西村尚己/長田洋平/アフロスポーツ】

緻密かつ圧倒的な前線からのハイプレス

 これまで全国制覇5回(選手権1回、インターハイ2回、高円宮杯全日本ユース1回、高円宮杯プレミアリーグファイナル1回)を誇る、言わずと知れた強豪・流通経済大柏と、初出場ながらベスト4に駆け上がってきた新星・東海大相模との対決となった。

 優勝候補筆頭の流通経済大柏は今大会、攻守において無類の強さを見せつけている。今年のチームは春先からプレミアEASTで圧倒的な力を発揮していた。

 チームの礎を築いた本田裕一郎前監督の時から、前線からのハイプレスで相手にボールをつながせる隙を与えない、先手必勝の守備は伝統だった。本田前監督の元で長年コーチを務めてきた榎本雅大監督が2020年に就任してからも、このハイプレスは脈々と引き継がれてきた。

 だが、今年のハイプレスの質はこれまでと一味違う。ファーストディフェンダーのアクションとともに、全体が縦と横のスライドを入れながら、ボールへのプレスとコースの遮断、セカンドの回収準備を同時に行っていくのが特徴だ。

 1トップ気味に張るFW粕谷悠が持ち前のスプリント力とフィジカルの強さを生かして守備のスイッチを入れると、1.5列目の3枚とダブルボランチ、そして両サイドバックが連動してボールホルダーへの囲い込みと、そこからのパスコースやスペースを前進しながら埋めていく。最終ラインも全体がコンパクトになるように上げ下げを調節して、プレスの強度を上げるだけではなく、プレスを破られた時のリスクヘッジも行う。

「前線からのプレスというよりも『ボールを奪い返すスピード』にこだわっています。ただ追い回すのではなく、ボールを意図的に奪うということが重要で、味方や相手との距離感、寄せる角度、スピードの強弱も考える知的さが兼ねそろっていないといけません。今年は特に映像を用いたミーティングをたくさんやっていて、ピッチ上で起こりうる現象を選手たちに細かく伝えています」

 榎本監督がこう口にするように、明確なチームコンセプトを打ち出し、それを日頃のトレーニングで成熟させてきたからこそ、プレミアEASTを今年の高体連最高成績となる4位でフィニッシュし、今大会では誰が出てもそのコンセプトを具現化できる土台が出来上がった。

誰が出ても流通経済大柏のサッカーが表現できる土壌

流通経済大柏の層の厚さとベンチワークも含めたチーム全体の機能性は群を抜いている 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 この『誰が出ても機能する』が流通経済大柏の今年の強さの最大のポイントで、現在3試合連続で4ゴールを叩き出しているFW山野春太はプレミアEASTでは僅か120分しか出ておらず、選手権前に大抜擢をされた選手。さらに今大会質の高いプレーを連発しているCB佐藤夢真も、シーズン途中までは奈須琉世と富樫龍暉の不動のCBコンビに割って入れなかった。

 さらに準々決勝の上田西戦で左サイドバックとしてスタメンに抜てきされたDF渡邊和之は、プレミアEAST出場は1試合のみ。今大会でも初めての出場という状況だったが、攻撃参加やサポート、守備面でも終始安定したプレーを見せた。

 テクニカルかつ力強いボランチの柚木創、今大会ずば抜けたテクニックで何度も観客を沸かしているJ2カターレ富山内定のMF亀田歩夢という主役も期待通りの働きを見せ、J1湘南ベルマーレ内定のDF松本果成も徐々にコンディションを上げてきている。

 誰がスタメンで出てもやるべきことを全体で表現でき、途中から誰が入ってもベースを元にアクセントを加えられる。

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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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