西田優大が新体制初戦で「サプライズ」 日本代表・緊急招集、大活躍の背景を探る

大島和人

ホーバスHCの新体制初戦は西田(中央)がキーマンになった 【写真:松尾/アフロスポーツ】

 FIBAアジアカップ2025の予選は今年2月にスタートし、パリ五輪を挟んで11月に「Window2」の2試合(21日・モンゴル戦/24日・グアム戦)が組まれていた。日本は中国も含めた3チームとホーム&アウェイの合計6試合を戦う。

 21日に日環アリーナ栃木で開催されたモンゴル戦は2連勝で迎えた「予選3戦目」だが、同時にバスケットボール男子日本代表としてはパリ五輪後に迎える初の公式戦。トム・ホーバスヘッドコーチ(HC)にとっても2期目の初戦だった。またアジアカップ予選はワールドカップ(W杯)予選を兼ね、W杯は五輪予選になる。つまり2028年のロサンゼルス五輪に続く試合でもあった。

 日本が21位、モンゴルは108位という世界ランキングの差を考えると、93-75の勝利は大きく喜べない。一方で緊急招集の西田優大(三河)が見せた活躍は特大のサプライズだ。21得点、12リバウンドはいずれもチーム最多。27分45秒のプレータイムで記録したプラスマイナス(出場時間中の得失点差)もチーム最大の「38」だった。

新戦力の適応はこれから

 日本代表は23年のW杯でアジア最上位に入り、48年ぶりに自力で五輪の出場権を得た。24年夏のパリ五輪では銀メダルのフランスとオーバータイム(延長戦)にもつれ込む激闘を演じた。もっともそんなチームも2021年11月のホーバス体制緒戦は中国に63-79、73-106と連敗している。チーム作りにはどうしても時間と手間が必要だ。

 さらに今回の代表は主力の多くが不参加だった。八村塁(レイカーズ・NBA)、河村勇輝(グリズリーズ・NBA)、富永啓生(マッドアンツ・NBA Gリーグ)ら海外組がシーズン中に代表へ参加しないことは想定通りだが、Bリーグ組も欠場が多かった。過密スケジュールの中で選手たちは消耗し、大小の故障を抱えている。五輪やW杯の本大会となれば話は別だが、アジアカップ予選で無理をすることは賢明でない。

 例えば渡邊雄太(千葉J)、馬場雄大(長崎)、テーブス海(A東京)といったパリ五輪経験者が今回の登録には入っていなかった。新顔にとってそれはチャンスだが、彼らはホーバスHCのスタイルにまだ適応できていない。

 またモンゴルは3人制のアジア王者で、個々のスキルやシュート力は相応にハイレベル。日本が侮(あなど)って迎え撃てば、足をすくわれる可能性があった。

 日本はアレックス・カーク(琉球)、吉井裕鷹(三遠)、西田、比江島慎(宇都宮)、富樫勇樹(千葉J)の5名が先発。開始5分ほどで15-6とリードを作り、セカンドユニットにメンバーを入れ替えた。ただしここから一気に追い上げられ、22-22の同点で第1クォーターを終えている。

 佐々木隆成(三遠)、大浦颯太(三遠)、中村拓人(広島)、山崎稜(広島)、山口颯斗(長崎)といった新戦力が今回のチームには招集されている。彼らはどうしても、チーム戦術への慣れが不足していた。

西田はなぜ外され、招集されたのか?

西田は2023年のW杯メンバーだ 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 西田は2023年のW杯を経験している25歳のシューティングガード(SG)だが、パリ五輪は落選している。新チーム立ち上げにあたっても、ホーバスHCの構想から外れていた。それでも指揮官は最終的に彼を頼った。

 ホーバスHCはこう説明する。

「正直に言うと、最初は合宿に呼ぶ考えがありませんでした。若い選手を見たかったし、西田がどういう選手かは既に知っていたからです。しかし(テーブス)海とジョシュ(・ホーキンソン)が少しケガをしてしまい、急に経験のある選手たちがいなくなってしまった。キャンプ中に呼んだ中で(ホーバスHCの戦術を)経験しているガードはマコ(比江島)と富樫の二人だけです。もう一つはモンゴルのロスターを見て、ガードに経験のある選手が必要だと感じました。それが彼を緊急招集した理由です」

 指揮官の評価が低かったわけではない。

「私は常に西田を追っていて、パリ五輪までコンボガード(PG、SGの兼任)として構想に入れていました。でも結局は(テーブス)海を連れて行きました。ヨーロッパのチームと対戦するときは別ですが、彼が3番(スモールフォワード/SF)でプレーできることも分かっています。身体は少し小さいかもしれないですが、オンボールディフェンス(DF)は素晴らしいし、タフな選手です」

 モンゴルはフォワードに個で仕掛けられる、シュート力の高い人材を擁していた。またプレッシャーDFの圧も強く、日本のボール運びを乱されるリスクがあった。西田は190センチ・90キロとバスケ選手にしては「小柄」で、本職はSG。昨年のW杯ではPGの3番手としても構想に入っていた。そんな彼がモンゴル戦でSFに起用された理由は守備力だった。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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