三笘の満面の笑み、ペップの和やかな笑顔 勝者と敗者が見せた意外な表情
同点ゴールを呼び込んだ三笘の頭脳プレー
後半33分の同点ゴールは三笘が起点に。相手の守備が手薄な左サイドに開いてパスを引き出し、チャンスを作り出した 【Photo by Crystal Pix/MB Media/Getty Images】
ところがこの試合の2人目のサブとなったマット・オライリーが逆転弾を決めた7分後の後半45分、ヒュルツェラー監督が日本代表MFの代わりにポーランド代表MFヤクブ・モデルを送ると、なんと三笘が満面の笑みを浮かべてピッチを降りてきたではないか。
「そうっすね。相当、前半は苦しい戦いでしたけど、1点に抑えたのがよかったと思いますし。交代選手の質も素晴らしかったんで、それに押された形です」
冒頭の「そうっすね」は、「素晴らしい逆転勝利だったが」という問いに対する一言だった。まず前半のマンチェスター・Cの猛攻を1点で切り抜けたのが逆転勝利のカギとなり、同点弾がジョアン・ペドロ、逆転弾がオライリーで、三笘はこのサブ選手2人の活躍を称えた。
けれども三笘の働きも素晴らしかった。まずボールへの寄せ。全くサボらず、勇気をもって相手の足元へ踏み込んでいった。前半はそんな三笘の献身的な守備も王者に追加点を許さなかった要因だ。
そして後半、左サイドから度々危険なクロスボールを放った。同点弾の起点となったのも三笘が左サイドから流し込んだパスだった。
ただしそれも、相手の弱いところをしっかり見抜いた三笘のポジショニングが功を奏した形になっていた。
「そこまで(相手が)プレスに来なかったんで、後半は。(スペースができて)余裕ができたのと、後ろのディフェンスラインもなかなかコンパクトなんで、サイドが空いていた」
1点リードする相手がプレスより、コンパクトな陣形を敷いて守ったことで生まれたサイドのスペースを三笘が狙っていたと明確に分かるコメントだ。そしてこの頭脳プレーが同点弾を呼び込んだ。
まずは左サイドを走った三笘にファン・ヘッケから素晴らしいサイドチェンジのロングボールが通った。この時、相手の最終ラインがコンパクトに中央に寄って、三笘にはマークがついていない。三笘は素晴らしいファーストタッチでこの強いロングボールを足元に収めたが、これも「サイドが空いていた」と話した日本代表MFが左に張ってそのスペースを確保していたため、相手のマークがつかず、楽々とボールをキープすることができたのだ。
そうして次の瞬間、得意の右足アウトサイドを使ったクロスボールをゴール前に飛び込んだペドロの足元を狙って入れた。惜しくもこれはマンチェスター・Cの19歳DFジャフマイ・シンプソン=ピュゼーにクリアされるが、そのセカンドボールが三笘のところへ戻ってきた。
このクリアボールに三笘が飛び込み、右足で払うように中央のダニー・ウェルベックにパス。あっという間にマンチェスター・CのDF陣がボールに群がるが、彼らが必死に押し出そうとするボールがなんとディフェンスラインの後方にこぼれた。
幸運なルースボールだった。そこにいたのが、三笘が最初に放ったクロスの的となったペドロ。至近距離からしっかり右足を振り抜き、ブライトンが1-1の同点に追いついた。
昨季のアストン・ヴィラ躍進の再現を自分たちが狙う
後半38分、リズミカルなパス交換で敵の守備を崩し、最後はオライリー。ブライトンが見事な連係で逆転に成功した 【Photo by Jacques Feeney/Offside/Offside via Getty Images】
ゴールが決まった瞬間、右コーナーに走ってセレブレーションを始めたオライリーを追って、三笘が両手を翼のように広げて走っていった。その顔にはもうこれ以上はないという歓喜の表情が浮かんでいた。
そしてその満面の笑みが交代の時にも消えなかった。
「もう結構きつかったですし、交代は妥当でしたし、でも、やることはやったかなと思います」と三笘。前半は超一流の右サイドバックが揃うプレミアリーグのなかでもNO.1の守備力と定評がある34歳カイル・ウォーカーと対峙し、「相手が嫌がることをやろうとは思ってましたけど、前半はなかなか守備に追われてできなかったです」と話した。しかし後半に関しては、「高い位置で、近いジョアン(ペドロ)だったり、ぺルビス(エストゥピニャン)がサポートしてくれて、いいトライアングルができていましたし、そこは良かったです」と続けて、珍しく自分のプレーに合格点を与えていた。
翌日、チェルシーとアーセナルが1-1のドローで勝ち点1ずつを積み上げ、ブライトンはこの両チームにノッティンガム・フォレストを加えた3チームと同勝点ながら得失点差で6位となったが、マンチェスター・Cに勝った時点では暫定ながら欧州CL出場圏内の4位に上がっていた。
一昨季にはヨーロッパリーグ出場権を獲得し、クラブ史上初の欧州戦参戦を決めた。もちろんまだ11月とシーズン前半ではあるが、今季にもまたその希望が持てる試合になった。
「上のチームに勝っているところはあるんで。逆に今まで落とさないところがあれば、もっともっといけましたけど。そこはもう切り替えるしかないですし、これからそういう試合も取っていければ、もっともっと上に行けると思う。可能性のあるチームだと思います」
昨季はアストン・ヴィラが驚異の躍進を遂げて、4位入賞を果たした。三笘の言葉は、ブライトンがその再現を虎視眈々(たんたん)と狙うという力強さに溢れていた。
4連敗にもペップはまるで他人事のように
マンチェスター・Cの監督として初めて公式戦4連敗を喫したグアルディオラだが、試合後は意外にも穏やかな表情だった 【写真:ロイター/アフロ】
それは試合直後の監督会見で見せたグアルディオラのそれだった。
これまで筆者が見た試合直後のペップといえば、良く言っても神経質、悪く言えば――それはやめておいて、まあなんというか、非常にイライラして、寄らば斬るぞというような厳しい気迫に満ち満ちていた。
それがこんな逆転負けの後だ、どれだけ不機嫌でとっつきにくいペップが現れるのだろうかと思っていた。そうしたら非常にリラックスした余裕たっぷりのペップが出てきて、質疑応答の際には笑顔さえ見せたのだ。
マンチェスター・C監督として初の公式戦4連敗にしても、「誰だって初めてのことはある」と笑顔で答えた。質問した記者をファーストネームで呼び、会見はまるで和やかな座談会のような雰囲気だった。4連敗の悲愴さなどどこにもなかった。
もっと言ってしまうと、まるで他人事だった。負けどころかドローでも自分の生身を削り取られたような顔をして、その痛みでピリピリとしていたペップはそこにはいなかった。
英メディアの報道では来季以降の契約更新もあるというが、この日のグアルディオラを見る限り、契約が満了する今季限りでマンチェスター・Cを去るのではないかという予感が突如として強く明確になった。
やはり長年競り合った同世代のライバルがいなくなるということは、ある種の喪失感を生み出すのだろうか。クロップ勇退後のペップの笑顔に違和感と感慨を抱き、そんな思いに達した11月9日のプレミアリーグだった。
(企画・編集/YOJI-GEN)