侍ジャパン井端弘和監督の「稀有な歩み」 アマチュア野球で指導実績を積み、熟練の“観察眼”でチームを編成

西尾典文

11月9日に行われたチェコとの強化試合に臨む、侍ジャパンの井端弘和監督 【Photo by Gene Wang/Getty Images】

 昨年10月に侍ジャパントップチームの監督に就任した井端弘和。“井端ジャパン”としての初陣となった2023年の「アジアプロ野球チャンピオンシップ」では見事に優勝を果たし、26年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)までの契約延長も発表された。

 筆者はここ数年、井端と野球の現場、YouTube、テレビ番組などで話を聞く機会が多く、今年4月には共著で『日本野球の現在地、そして未来』(東京ニュース通信社)という書籍も出版した。これまでのやりとりの中から、井端がいかに今までの指導者とは異なっており、日本の野球界にとって貴重な人材であるかということを紹介したいと思う。

現役時代の井端弘和(右)。同級生の高橋由伸とともに2015年に引退すると、3年間巨人で一軍内野守備走塁コーチを務めた 【写真は共同】

 井端は現役時代にはショートとしてベストナイン5回、ゴールデングラブ賞7回に輝くなど、中日黄金時代の中心メンバーとして活躍しており、球史に残る名選手であることは間違いない。

 15年に巨人で現役を引退すると、そのまま球団に残り、高橋由伸監督のもとで3年間一軍内野守備走塁コーチを務めている。18年オフに高橋監督の退任と同時に巨人を退団すると、野球解説者となった。しかし、ここからの歩みは他の指導者とは大きく異なっている。井端が目を向けたのはアマチュア野球だったのだ。

 20年からは亜細亜大時代の同期である飯塚智広が監督を務めていた、社会人野球のNTT東日本の臨時コーチに就任。その後正式にコーチとなり、ユニフォームも着ている。

 社会人野球のコーチを選んだことについて、井端は「最初に社会人野球を選んだのは、自分が経験していない世界だったということですね。高校野球、大学野球は自分も実際経験してきて、ある程度どんなものかはイメージが湧きます。でも社会人野球のことは知らない。選手たちはどんなことを考えて、どんな野球なのかを知りたいというのが大きかったです」と話している。

 井端ほどの実績があれば、解説者を続けているだけで再び指導者としてプロ野球のユニフォームを着る可能性も高かったと思われるが、そうすることなくあえて自分の知らなかった世界に飛び込んだのだ。

 NTT東日本のコーチ就任当時、筆者は井端と直接の面識はなかったが、公式戦だけではなくオープン戦にも帯同している姿を幾度となく目撃している。自身がプロ野球で得た知識や経験を選手に伝えるだけではなく、自らが学ぼうという姿勢がこのあたりからもよく感じられた。

ジュニア世代の指導にも携わる

小学生たちのプレーを見守る井端弘和監督 【写真は共同】

 井端の活動は社会人野球だけにとどまらず、さらに下の年代に対しても広がっていくことになる。巨人を退団した直後の18年12月には、元プロ野球関係者が学生野球を指導するために必要な「学生野球資格回復制度」の研修を受講。大学野球や高校野球の現場にも積極的にかかわっていくこととなる。

 さらに22年1月からは、小中学生向けに自らが指導する『井端塾』をスタートさせることとなった。最近はチームだけでなく個人レッスンを行う野球塾は増えてきているが、プロ野球でここまで実績を残した選手が引退後間もない時期に立ち上げるというのは、これまでになかったことではないだろうか。

 井端塾を立ち上げた理由について本人に聞くと、「高校生、大学生、社会人を見ている中でプレーの癖が気になり、それがどの段階で身についてしまうものなのかということを突き詰めていくと、ジュニア世代の指導に原因があるのではないか」という結論になったのだという。

 仮にそう考えたとしても、実際に行動を起こすということはなかなかできるものではない。22年10月には台湾プロ野球の台鋼ホークスの臨時コーチも務めているが、自らの野球の世界を広げるための行動力は、指導者にとって重要な資質の一つと言えるだろう。

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著者プロフィール

1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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