侍ジャパン井端弘和監督の「稀有な歩み」 アマチュア野球で指導実績を積み、熟練の“観察眼”でチームを編成
U-12、U-15監督経験から得たもの
U-15杯で優勝し、帰国した井端弘和監督(前列中央)と選手たち 【写真は共同】
1年目のときはなかなか思い通りにいかず、イライラして怒ってばかりいたとのことで、結果も7位に終わっている。ただ、あるタイミングから、代表に選ばれている選手とはいってもまだまだ小学生であり、できないことが当たり前という考え方に変わったというのだ。
2年目の2023年には選手たちがいかに力を発揮できるかということに注力し、結果も前回大会を上回る4位となっている。そして、このときの経験がトップチームに生かされている点について、井端はこう話している。
「小学生だと良くも悪くも、こちらの想定からかけ離れたプレーをするんですよ。練習を見て大丈夫だと思って試合に出したら、全然上手くいかないこともありました。だからなるべく試合中にポジションを変えたりせず、ピッチャーも途中から投げる選手はベンチからスタートさせて、準備をしっかりするようにしました。それでもなかなか上手くいかないですからね」
「2年目のU-12のときはそういうことを経験していたので、何があってもイライラすることはなくなりましたし、プラスに考えられるようになりました。そんな小学生を相手にやってきたことと比べれば、大人の、しかもプロの選手となれば、こちらの想定を大きく外れるようなことはありません。だから(アジアプロ野球チャンピオンシップでの)ベンチでも、比較的落ち着いて試合に臨めていたと思います」
実際にトップチームでの試合における井端の立ち居振る舞いからも、一つ一つのプレーに一喜一憂することなく、常に冷静に選手の状態や試合状況を観察しているように見える。
また、今年監督に就任したU-15侍ジャパンでも、8月に行われたワールドカップで優勝。大会後にはU-15の世代でも、思っていた以上にできなかったことが多いと話していたが、その中で結果を残せたのは、監督としての井端がアップデートされている証拠だろう。
若手選手を見極める観察眼
2023年に行われたアジアプロ野球チャンピオンシップを制し、トロフィーを掲げる井端弘和監督 【写真は共同】
当時の話も井端に聞いたことがあるが、他球団の選手であってもこれから成長しそうな選手については、自然と目が向いていたという。それは現役を引退してからも同様で、NTT東日本のコーチ時代に対戦した選手についてもよくその印象を話していた。こうやって長年培ってきた選手を見る“眼”が、代表チームのメンバー選考、選手起用にも生かされていることは確かだろう。
今回のプレミア12ではメジャー所属の選手を招集することができず、NPB所属の選手でも故障などで辞退した例は多い。そのため代表メンバーは、一般的な野球ファンの間ではまだ知名度の低い選手も含まれているが、井端にとってはプロ入り前からその存在を認識していた選手ばかりなのだ。チーム編成においても選手起用においても、大きなアドバンテージであることは間違いない。実際、昨年行われたアジアプロ野球チャンピオンシップでも、若手選手の長所を生かしてチームを優勝に導いて見せた。
11月13日に初戦を迎えるプレミア12、26年に開催予定のWBCでもその手腕にかかる期待は大きい。しかし、井端自身が考えているのは、そんな直近の国際大会だけではないように感じることも多い。11月16日に公開予定の後編では、井端の見据える未来の部分について触れていきたいと思う。