王者のプライドをかけ、保田克也と宇津木秀が激突 大型ホープ・今永虎雅と対する齊藤陽二の意地――ライト級の戦いに注目【11月のボクシング注目試合】

船橋真二郎

今永虎雅、保田克也、主催の大橋ジム・大橋秀行会長と共同プロモーターの瀬端幸男・DANGANジム会長、宇津木秀(2024年9月24日) 【写真:船橋真二郎】

 11月の注目も「Lemino BOXING フェニックスバトル」になる。21日、東京・後楽園ホールのメインは、体重61.2kgリミットのライト級のチャンピオン対決。WBOアジアパシフィック王者の保田克也(大橋)と東洋太平洋王者の宇津木秀(ワタナベ)が“王者のプライド”をかけて激突する。

 セミファイナルは「アジア最強」と銘打たれたライト級トーナメントの決勝。ともに予選、準決勝を序盤KOで勝ち上がってきたアマチュア通算10冠のホープ・今永虎雅(いまなが・たいが、大橋)と勝利はすべてKOの齊藤陽二(角海老宝石)が戦う。

 さらに日本タイトル挑戦権をかけた最強挑戦者決定戦が2つ。スーパーウェルター級は、キック出身で無敗の日本1位、左右田泰臣(EBISU K’s BOX)と元ウェルター級の東洋太平洋、WBOアジアパシフィック、日本王者で現・日本スーパーウェルター級2位の豊嶋亮太(帝拳)、ウェルター級は、日本5階級制覇王者・湯場忠志の長男で日本2位の湯場海樹(ワタナベ)と3位で日大出身のシーサー皆川(平仲ボクシングスクール)が来春のチャンピオンカーニバル出場を目指す。

 また前・日本ライト級王者で同級2位の仲里周磨(オキナワ)が再起。メインで2冠を争う保田と宇津木には過去に勝ったことがあり、日本スーパーライト級2位で1階級下のライト級に進出するベテラン、アオキクリスチャーノ(角海老宝石)との上位ランカー対決でアピールを狙う。

 2025年にトーナメント戦が企画されているヘビー級の4回戦を含めた全試合は、NTTドコモの映像配信サービス「Lemino」でライブ配信される。

難関のライト級で世界を目指す戦い

ライト級2冠王座統一戦に臨む保田克也(左)と宇津木秀(2024年9月24日) 【写真:船橋真二郎】

 群雄割拠の国内ライト級戦線が動き出す。保田克也(32歳、14勝9KO1敗)、宇津木秀(30歳、14勝12KO1敗)がアジア2冠を争う注目の一戦から約2週間後の12月7日には、日本ライト級王者の三代大訓(横浜光)が同級3位で元日本フェザー級王者の丸田陽七太(森岡)を挑戦者に迎える好カードが控える。

「一番の目標は世界なので、チャンスがあれば(世界戦を)やりたいんですけど、層が厚い階級で、なかなかそうもいかないと思うので。その場合は3冠を狙っていきたい」(保田)

「世界に行けるチャンスなので、まずはしっかり勝ちたい。話があれば、日本も獲りに行きたいし、(宿敵の)三代とやってほしいという声がいっぱいあるので、視野に入れながら」(宇津木)

 今年4月に仲里周磨を下し、スーパーフェザー級の東洋太平洋王座に続き、1階級上の日本王者となった三代も積極的に「ベルトを3つ集めたい」と意思表示してきた。

「僕にとっても、宇津木選手にとっても、この試合は世界につながる大切な一戦」

 9月24日の発表会見で、保田が宇津木との2冠戦の位置づけを語ったように、実力派の3人の王者がそれぞれのベルトをかけ、“ハイリスク・ハイリターン”の直接対決に意欲を示すのにはわけがある。

 現在のライト級は、WBA王者にジャーボンテ・デービス、WBC王者にシャクール・スティーブンソン(いずれも米)、IBF王者にワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)と世界的なスター選手が王座に君臨し、マーケットの中心はアメリカ。保田がWBO6位、三代がIBF10位と各1団体で世界ランクに入り、挑戦資格を有しているとはいっても、おいそれと挑戦できるわけではないのが現実だ。

 世界に向けては、地域タイトルを束ねることでランキングを上げ、団体を広げ、世界挑戦者決定戦を含めた可能性を高めること、国内に向けては、真の日本最強を証明することで、難関のライト級で世界に挑む実力をアピールする戦いになる。

アジア2冠を制するのは――

発表会見で保田(左)と宇津木がフェイスオフ。まだ試合2ヵ月前、両者の人柄も相まって、照れ笑いが浮かぶ(2024年9月24日) 【写真:船橋真二郎】

 中央大時代に国体優勝の実績を残した保田は昨年6月、当時15戦全勝(5KO)のアピチェット・ペッチマネー(タイ)との王座決定戦をダウン応酬、苦闘の末に判定で勝ち抜き、デビューから5年10ヵ月のプロ初戴冠後、ここまで3度の防衛に成功している。

 カウンターが得意な懐の深いサウスポーで、アクションの少ないことが課題だったが、ここ2戦はTKO、KO防衛中で少しずつきっかけをつかみつつある。

 宇津木はアマチュア時代、主要タイトル獲得歴こそなかったものの、花咲徳栄高から平成国際大、社会人にかけて通算108戦(81勝)ものキャリアを積んだ。2022年2月、プロ10戦目で鈴木雅弘(角海老宝石)との王座決定戦を制して日本王者となり、2度の防衛にも成功した。

 昨年4月に初黒星となるKO負けで日本王座を明け渡すも、今年7月、東洋太平洋王者となっていた鈴木を返り討ちにした。これが初防衛戦になる。攻守のバランスに優れたプレッシャー型で、テンポとパワーを兼ね備えたコンビネーションで相手を切り崩す。

 保田は王座奪取の1ヵ月前から本格的に組んだ元オリンピアンの鈴木康弘トレーナーが課すハードトレーニングで、心身ともども鍛えられてきた。この1年半、積み上げてきた成果を発揮できるか。

 宇津木は9月に待望のラスベガス合宿が実現。参考にする選手のひとりに挙げてきた井岡一翔(志成)を指導するイスマエル・サラス・トレーナーに師事し、1階級上の現役WBC世界スーパーライト級王者、アルベルト・プエジョ(ドミニカ共和国)とスパーリングするなど、「より自分のスキルが上がる合宿になった」と手応えを語っていた。

 まずは宇津木が仕掛け、保田が迎え撃つ構図が軸になると予想される。ともに世界をアピールするには手堅く勝つだけでは十分ではなく、相応のインパクトが求められると理解しているはず。序盤の駆け引きをどちらが抜け出していくか。注目である。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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