王者のプライドをかけ、保田克也と宇津木秀が激突 大型ホープ・今永虎雅と対する齊藤陽二の意地――ライト級の戦いに注目【11月のボクシング注目試合】

船橋真二郎

近未来のライト級を担う大型ホープ

ライト級の大型ホープ、今永虎雅(2024年9月24日) 【写真:船橋真二郎】

 奈良・王子工業高時代、同級生の荒本一成(帝拳)と史上初の高校8冠、出場可能な主要全国大会を総ナメにした今永虎雅(25歳、6勝5KO無敗)は日本ライト級6位。齊藤陽二(29歳、8勝8KO3敗2分)が4位でランクは下だが、注目度、期待度の高さで上回るのがライト級トーナメント決勝。今永自身、「しっかり倒して、来年につなげたい」と自信を示す。

 東洋大と合わせ、アマチュア通算126戦(113勝)を誇るサウスポーの大型ホープは、プロで試練も乗り越えてきた。唯一の判定勝ちとなった4戦目、ヘビ・マラブ(インドネシア)戦の試合中にアゴを骨折。9ヵ月の離脱を余儀なくされた。

 が、ブランクの間に戦力をアップして復帰してくるところが並みのルーキーとは違うところ。同門の現・WBO世界バンタム級王者で元K-1王者の武居由樹の古巣「パワー・オブ・ドリーム」の古川誠一会長に「1からパンチの打ち方を見直してもらって、半年以上、(パンチを)打ち込んで、打ち込んで、しこたま打ち込んだ」。その成果で今年4月に同トーナメントで復帰してからの2戦では、パンチの威力が格段に増した。

 勝者が日本ランク上位に生き残る。今永は「どのタイトルでも大丈夫なんで、来年はタイトルに絡みたい」と意気込む。そのホープに対し、「僕は“Bサイド”と言われるのが好きで。そういう選手(Aサイド)に勝つところを見せられたら、応援してくれてる人は喜んでくれると思うんで。楽しみっすね」と齊藤は腕をぶす。

「つけ入る隙はある」――堤聖也の殊勲にも刺激

大方の予想、期待をひっくり返し、「盛り上げたい」と齊藤陽二 【写真:船橋真二郎】

「普通に巧いし、完成度が高くて、上に行くような選手だなと思います」

 まずは率直に今永の印象を語った齊藤。「向こうは、こっちのことを『やりやすい』と思ってると思いますけどね」と続けた。それでも「予想外のアクシデントが起きるんじゃないですか」と付け加える。

「あいつ(今永)からしたら、僕の動きなんて『今からパンチ打つよ』って言って、打つようなもんだと思うんですよ。けど、そこまで分かった上で、勝ってやるよっていう感じっすね」

 相手のインサイドに潜り込み、パンチを打ち込むパワーヒッター型。プロ叩き上げのような戦いぶりだが、小学4年から始めた空手を経て、習志野高、駒澤大でアマチュアの経験がある。が、高校3年時に出場したインターハイ、国体は、いずれも2回戦敗退。大学3年時の国体ベスト8が最高成績と目立った活躍はできなかった。

 Bサイド=脇役、引き立て役と言われるのが好きと言うように、プロでは、Aサイド=主役、ホープを相手に印象的な試合を演じてきた。

 記憶に新しいのは3年前、アマチュア3冠からプロに転向し、当時4戦全勝(3KO)のサウスポー、木村蓮太朗(駿河男児)と静岡で対戦。僅差0-2の判定で敗れたものの、1回、4回とダウンを奪い、地元のホープを追い詰めた。

 個人的に印象に残るのは、2018年6月のデビュー戦。現・東洋太平洋王者の宇津木秀を相手に2回に一瞬、ヒザをつかせるダウンを奪うも、以降は圧倒的に支配され、劣勢の展開が続く。敗色濃厚の最終6回終盤、痛烈な右の一打で宇津木の腰が落ちた。猛然と攻めたが、辛うじて終了ゴングに逃げ込まれ、ジャッジ全員が1ポイント差の判定を落とした。

「あと10秒あったら」(齊藤)。「勝っていた」「危なかった」と、あとに続く言葉はそれぞれでも、あの試合を見た誰もの心に浮かんだ実感は「最後のゴングを聞いたら、勝てない」の覚悟に変わった。

 この10月13日には、1995年生まれの同い年で、同門の殊勲に刺激を受けた。堤聖也が世代トップの井上拓真(大橋)を打ち破り、WBA世界バンタム級王者となった一戦。「それこそ、完全に堤がBサイドで、相手も同じ大橋ジムで。似てるな、と思うんで」と自分を重ね合わせる。

「結構、自信はあります。つけ入るポイントはあるかなっていう。自分にしか突けないポイントが。(今永が)味わったことのないタイプにはなるのかな、と思いますけどね。ハマればワンサイドで行く可能性もあるっすね。まあ、ハマらなければワンサイドで負けるかもしれないけど(笑)」

 当然のように「絶対に今永が勝つ」「今永は世界チャンピオンになる」と見ている人たちの予想、期待をひっくり返すことが大きな力、やりがいになるという。「せっかくやるなら、盛り上げたい」と齊藤。Bサイドの意地を見せることができるか。

世界4団体でランクされる次代のホープが競演

日本バンタム級王者の増田陸(左)と日本ライトフライ級1位の高見亨介(2024年10月5日) 【写真:船橋真二郎】

 2日の後楽園ホールでは、注目を集めるバンタム級の日本チャンピオンで、世界4団体すべてにランクインするサウスポーの増田陸(帝拳/27歳、5勝5KO1敗)、元大相撲の小結・旭道山の甥で東洋太平洋スーパーフェザー級王者の波田大和(帝拳/27歳、15勝14KO2敗)、日本ライトフライ級1位で、4団体の世界ランクに名前を連ねる高見亨介(帝拳/22歳、7勝5KO無敗)、各階級を担う3人のホープが登場する。

 増田は8位の宇津見義広(ワタナベ/40歳、17勝10KO11敗6分)を挑戦者に迎え、初防衛戦に臨む。左ストレートに威力を秘めるが、この7月の戴冠戦ではイメージを逆手に取る右フックでフィニッシュ。4回KOで富施郁哉(ワタナベ)との再戦を制した。

 2004年9月のデビューからブランクも挟んで20年。タイトル初挑戦の宇津見は年齢的にラストチャンスの可能性が高い。ヨネクラジム、ワタナベジムの後輩でもある富施のベルト奪還なるか。持ち前の変則的なボクシングを全面に出し、王者をかく乱したい。

「(宇津見は)キャリアもあって、いろいろな戦い方をしてくる選手」と増田は当然、織り込み済み。その上で「キレイに倒して勝ちます」と宣言。世界の力を示すためにも、もたついてはいられない。

 セミファイナルに登場するサウスポーの波田は、プレスコ・カルコシア(比/28歳、12勝9KO4敗1分)とノンタイトル戦。カルコシアは今年7月、保田克也のライト級王座に挑戦し、8回KO負けして以来の再起戦になる。現・WBO世界スーパーフェザー級2位で全勝のアルバート・ベル(米)の相手に指名され、アメリカで5回終了TKO負けしたこともある。キャリア初のフィリピン選手との一戦を経験にしたい。

 日本タイトル挑戦権を保持する高見はジョマー・カインドグ(比/29歳、12勝5KO4敗1分)と前哨戦。12月10日に2度目の防衛戦に臨む日本ライトフライ級王者の川満俊輝(三迫)に対し、「少しでもプレッシャーを与えられる試合をしたい」と意気込む。

 もともとKO勝ちにこだわりを持つ高見。17戦のキャリアでKO負けがないカインドグを倒し、初のタイトルアタックに弾みをつけられるか。

 7月にまさかの初回TKOで初黒星を喫した日大出身のフェザー級ホープ、金子虎旦(帝拳)の再出発の一戦を含む全カードは「U-NEXT」でライブ配信される。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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