力石政法が決意の世界前哨戦、“天才”阿部麗也は再起戦 粒ぞろいの最強挑戦者決定戦【10月のボクシング注目試合②】

船橋真二郎

注目の「Lemino BOXING フェニックスバトル」

左から中川公弘、大橋秀行会長、力石政法、松本圭佑(2024年8月26日) 【写真:船橋真二郎】

 秋の世界戦ラッシュ後、10月17日の東京・後楽園ホールでは、注目選手が多数登場の「Lemino BOXING フェニックスバトル123」が開催される。メインはIBF世界スーパーフェザー級3位にランクされる力石政法(大橋)の初の世界挑戦を見据えた移籍初戦、セミでは松本圭佑(大橋)が日本フェザー級王座4度目の防衛戦に臨む。

 さらに日本スーパーバンタム級1位の石井渡士也(RE:BOOT)と同級2位の池側純(角海老宝石)の日本タイトル挑戦権をかけた2年ぶりの再戦。また元アマチュア4冠の“ハマのタイソン”こと強打のウェルター級ホープ・田中空(大橋)、史上3人目の世界ユース選手権優勝を史上初の高校2年生で果たし、アマチュアの年間最優秀選手賞にも選ばれた19歳のホープ、サウスポーの坂井優太(大橋)のプロ転向第2戦など、楽しみなカードがそろった。NTTドコモの映像配信サービス「Lemino」でライブ配信される。

「絶対にKOするんで見ててください」と力石

力石政法は大橋ジム移籍初戦となる“世界前哨戦”に強い決意をにじませる(2024年8月26日) 【写真:船橋真二郎】

「相手の選手は失うものがないし、僕の世界ランキングを狙って、勝てば人生が変わるぐらいの捨て身の覚悟で来るんで。油断せすに全力で仕留めたい。この前、不甲斐ない試合をしたので、力石だったら世界チャンピオンになれるんじゃないかと、みなさんに期待してもらえるように頑張ります」

 8月26日の発表会見。力石(30歳、15勝10KO1敗)はアルネル・バコナヘ(比/30歳、17勝12KO8敗)との一戦に強い決意をにじませた。

 今年3月、「不甲斐ない試合」という一言では言い表せない大激闘を演じた。舞台はイタリア・コッレフェッロ。WBC世界スーパーフェザー級6位のマイケル・マグネッシ(イタリア)のハイテンポな仕掛けにペースを取り切れず、序盤から厳しい戦いを強いられた。

 それでも気持ちを切らすことなく相手の圧力に抗し続け、終盤にチャンスをつかむ。迎えた最終12回に2度倒すと猛攻を続けてストップ。敵地での戦いを大逆転で制した。

 世界への確固たる意志を感じさせる壮絶な試合だったが、だからこそ、まだ足りないと感じたのだろう。今年7月、「最高の環境」への移籍を決断。見方を変えれば、世界奪取に向け、言い訳のできないところに自らを追い込んだとも言える。

「勝つことは当たり前で、僕に求められるのは勝ち方。見た人全員を納得させるぐらいの内容で勝たなきゃいけないな、とプレッシャーを感じています」

 対戦相手のバコナヘは昨年8月、この9月7日に1階級下のフェザー級で東洋太平洋王者となった強打のサウスポー、中野幹士(帝拳)に6回KO負けを喫している。世界3団体にランクされ、「試合内容も見て、チャンスがあれば行きたい」と大橋秀行会長が“世界前哨戦”と認める一戦。求められる勝ち方はひとつしかない。

「(力石とは身長差9cmで)低くて、くねくねしてて、倒しにくいな、という印象なんですけど、うまく考えながら、絶対にKOするんで見ててください」

 3日前の12日には愛知県国際展示場でIBF世界ライトフライ級王者のシベナティ・ノンティンガ(南アフリカ)に挑み、9回TKO勝ちで見事な世界王座返り咲きを果たした兄・矢吹正道(LUSH緑)をセコンドとしてサポートした。

「兄が先にチャンピオンになることで、より僕の思いも強くなると思うので、兄に期待してます」

 そう話していた力石。夢である「兄弟同時世界王者」に向けて、新天地から再出発するサウスポーがどんな戦いを見せるのか。注目したい。

自身を見つめ直した松本圭佑のV4戦

日本フェザー級王者の松本圭佑(右)と挑戦者の中川公弘(2024年8月26日) 【写真:船橋真二郎】

 日本フェザー級王者の松本(25歳、11勝7KO無敗)は挑戦者に同級7位の中川公弘(ワタナベ/33歳、10勝5KO6敗2分)を迎える。5月、東京ドーム興行直後の「Lemino BOXING フェニックスバトル」のメインを任された松本は、ジャッジ全員が100-90とつけるフルマークの判定で当時8位の藤田裕史(井岡)を退けた。

 が、変則サウスポーで、スイッチも駆使するベテランに対し、見せ場をつくることができず、単調な攻防に終始した。試合後には、元東洋太平洋、日本フェザー級王者の父・松本好二トレーナー、大橋会長から「プロとは」と説かれるなど、期待の裏返しで厳しい言葉を投げかけられた。

「僕の課題は、初心を忘れず、もっとハングリー精神を持って、練習、そして、試合にひたむきに取り組むこと。世界に向けて、またアピールできるような試合を心がけたいと思います」

 9歳から大橋ジムで育ったホープは、あらためて幼い頃に抱いた世界チャンピオンという夢の意味を噛みしめ、間近に見てきたジムの偉大な先輩たちの背中、練習や試合に向かう姿勢を思い返し、自身を見つめ直したという。

 中川は2017年夏に閉鎖になった名門ヨネクラジムの出身。大橋会長、松本トレーナーの後輩でもある。プロデビューから間もなく11年になるベテランだが、これがキャリア初のタイトル挑戦。今年3月の前戦では同級1位として5位の殿本恭平(勝輝)を後楽園ホールに迎え、終盤に奪ったダウンで一矢報いるも、精彩を欠く内容で判定負けした。

 その殿本が現在1位で、11月24日にアマ出身で無敗の2位、大久祐哉(金子)と大阪・堺で日本王座挑戦権をかけて戦う。順当なら、この一戦の勝者=“最強挑戦者”を迎える来春のチャンピオンカーニバルが松本の実力証明の場となるか。まずはIBF7位を筆頭に3団体で世界ランク入りするに相応しい実力を見せたい。

 下馬評不利は承知の上。千載一遇のチャンスに「記念ではなく、必ず獲りに行く」と中川は意気込む。粘り強く戦い、王者の焦りを誘えるか。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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