「こんなに遠くから……」テレビじゃ伝わらないカーリングの距離感 日本選手権優勝SC軽井沢クラブ・上野美優インタビュー

奥岡幹浩
 国内外の強豪チームがそろう軽井沢国際カーリングが12月13日から3日間、長野・軽井沢アイスパークで開催される。国内注目チームのひとつが、女子で今年2月の日本選手権を制したSC軽井沢クラブだ。司令塔役のスキップを務める上野美優(23)は、22年世界ジュニア選手権の優勝メンバー。カーリング日本代表単独チームとして初の世界一に貢献し、その2年後には日本一のタイトルも手にした。26年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪を目指す期待のホープに、地元大会の見どころやチームメート、そして自身の素顔についてたっぷり聞いた。

カーリングを生観戦すると、たぶんこんな感想を抱くかも

カーリングの日本選手権女子決勝で、ショットを放つSC軽井沢クラブの上野美優 【写真は共同】

――地元出身の上野選手にとって、軽井沢国際カーリングという大会とは。

 小学4年でカーリングを始めてから、国内外のトップチームが集うこの大会を毎年観戦していました。いまは選手として出場できることが嬉しいですね。

――初めて出場したのは。

 高校生のとき、ジュニアのチームとして出場させてもらったのが最初です。自分たちの現在地を把握し、世界の一流のプレーを体感できたことは、貴重な経験になりました。試合会場は普段自分たちが練習してる場所だから、本来なら私たちの方がアイスの情報を持っているはず。なのに相手の方がアイスが読めていて、スコアも上回られてしまう。トップチームのすごさを実感しました。

――カーリングを生観戦する場合、どんなところが注目ポイントになりますか。

 試合が行われるシートって、実は結構長いんです。全長約45メートル。テレビ画面や動画だと、投じるまでの動作やハウスの中の様子がアップで映ることが多いだけに、実際の会場では、印象よりもシートが長く感じられるかもしれません。体験会などでも、「こんなに長かったの」「こんなに遠くから投げているんだ」といった感想をよく耳にします。

――今回来日するチームで注目は。

 個人的にはスイスのチーム・ティリンゾーニを推します。というのも、最後の4番目に投げるアリーナ・パッツ選手は私の憧れのプレーヤー。カーリングでは多くのチームが、司令塔であるスキップが最後に投げる役割を担います。でもパッツ選手は、スキップではないけれど4番目に投じるフォースというポジション。スイープで奮闘して、最後にさらりと難しいショットを決める姿が格好良くて。注目するようになったのは4年ちょっと前からですが、当時の私のポジションもフォース。こんな選手になりたいなと思ったことが憧れるきっかけでした。

――これまでパッツ選手と会話したり、試合をしたりといった経験は。

 お話したことはないのですが、今年3月の世界選手権で初めて対戦しました。憧れの選手ではあるけれど、私たちも勝ちたいと全力でぶつかりました。最新世界ランキング2位のチーム。実際に試合をしてみると、やっぱりうまさや安定感が違いました。その憧れの存在を超えるために、もっともっと頑張らなきゃという気持ちになりました。

――今度の軽井沢国際カーリングでも対戦する可能性はありますね。

 とても楽しみです。地元の軽井沢で、ずっと見てきた軽井沢国際という大会で試合ができたら、本当に幸せなことと思います。

――ところで、大会中は自宅から通うんですか。

 はい。自宅と会場を車で往復することになります。

――食事も自宅で。

 そうですね。いつもの味を口にできることはすごくパワーになります。私と妹の結生(ゆい)は同じチームなので、2人で「このメニューを食べたい」と家族にお願いすると、リクエストに応えてくれることもありがたいです。

――好きなメニューは。

 大会中というよりも長期海外遠征に行く前だったりによく食べるのが自家製の餃子。私の大好物です。あと、軽井沢での外食ならレストラン菊水がおすすめ。若鶏の鉄板焼きが絶品です。会場の軽井沢アイスパークからだと車で5分程度とすぐ近くです。

日本選手権優勝チームだけど、まだまだ荒削り

司令塔役のスキップとしてチームメートに指示を送る上野 【写真は共同】

――いまはスキップとしてSC軽井沢クラブを率い、今年2月には日本選手権初優勝。チームの特徴は。

 粘り強さが持ち味です。前半に点差をつけられても、最後まであきらめない。また、最初に石を投じるリードの選手から、最後の4人目のフォースまで、アイスを読んでショットをつなげていくことも、昨シーズンの大会を通じて得られた武器であり、私たちの大きな強みだとも思います。

――メンバー4人中、3人が20代前半。これからさらに強くなりそうですね。

 そうですね。まだまだ荒削りなので(笑)。伸びしろはたくさんあると思います。

――チームの課題はどんなところでしょうか。

 作戦の部分では、本来有利なはずの後攻で2点以上取ることが、このチームは苦手。後攻でもう少し幅広い作戦を選択できるように取り組んでいます。

――上野選手ご自身の特徴やアピールポイントは。

 去年からスキップとして活動するようになり、今はチームの作戦の幅を広げたり、アイスの状態を読む技術を少しでも上げられるように取り組んでいます。カナダ遠征中の今も、そこは意識しながら試合をしていて、その中でまずは初戦で優勝という結果に結び付けられました。今回の遠征で得たものを、軽井沢国際で少しでも出したいですね。最後の一投を任される者としてはやっぱり、頑張っていいショットを決めたいとも思っています。

――日本選手権でも勝敗を左右する場面で何度もスーパーショットを繰り出していました。その精神力の強さの秘訣は。

 いや、メンタルは決して強くないです(笑)。初めてフォースを任されたときは、緊張して全然ショットが決まらなかった。なかなか自分をコントロールできないことが多かった。でもカーリング自体を楽しんでプレーしようという意識に変えたら、少しずつ決まるようになって。日本選手権のときにはカーリングを楽しみ、日本選手権を楽しんでプレーしようという気持ちでいました。あとはチームメートやコーチにも助けてもらったおかげです。

1/2ページ

著者プロフィール

1975年三重県生まれ、日大芸術学部卒。大学在学中からフリーライターとして約15年間活動したのち、総合週刊誌「サンデー毎日」(毎日新聞社)契約記者に。その後、時事通信社でプロ野球などを取材。19年秋に日刊スポーツ新聞社へ移り、五輪競技などを担当する。プロフィール画像は21年6月、当時幼稚園年長の一人娘が手がける

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント