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モハメド・サラーの「爆弾発言」に英国内騒然 その言葉からうかがえるスロット新監督の求心力

森昌利

第3節マンU戦後のサラーの発言にメディアやファンが騒然となった。エジプト人FWの真意は? 【Photo by Michael Regan/Getty Images】

 9月第1週は代表ウイークのため、プレミアリーグは小休止。そこで今回は、第3節終了後に英国内を賑わせた、ある話題についてお伝えする。モハメド・サラーの去就問題だ。現在リバプールでは、このエジプト人エースのほかにもフィルジル・ファン・ダイク、トレント・アレクサンダー=アーノルドが契約最終年を迎えており、チームの象徴とも言える3選手の今後の動向が大いに注目されている。

サラーの発言はクラブへの“呼びかけ”

 先週の英国はモハメド・サラーの話題一色となった。

 衝撃の発端は、マンチェスター・ユナイテッド戦(現地時間9月1日)直後のスカイスポーツのインタビューだった。

 リバプールは、国内最大のライバルであるマンチェスター・Uとのアウェー戦で3-0と完勝。サラーはこの試合で1ゴール・2アシストと全得点に絡む大活躍を見せた。これでリバプールは開幕3連勝。この連勝中、サラーは3ゴール・3アシストを記録している。

 全く衰えを見せぬ絶好調のエジプト代表FWに、リバプールの元同僚であるインタビュアーのダニエル・スターリッジが「素晴らしい夏(プレシーズン)を過ごしたと聞いている。ヘアスタイルも変わった。今はいったい、どんな気分だろう?」と興奮気味に尋ねた直後だった。

「いい夏を過ごしたよ。とにかくポジティブでいようと思っている。だってこれが僕の最後のシーズンだからね」

 サラーはこともなげに、さらっとそう言った。この発言がまるで乾ききった森林で起こった山火事のように、ものすごい勢いで炎上し、拡大した。その後の英メディアはサラーの去就をめぐって狂奔した。

 ポール・ゴースト記者が地元紙『リバプール・エコー』のリバプール番となったのは7年前。それはちょうどサラーがリバプールに加入した2017年であり、今回のマンチェスター・U戦で通算160ゴール目を奪い、プレミアリーグの歴代10位となったエジプト代表FWの偉大な足跡とぴったり重なる。穏やかな大男で、記者としては無口な印象だが、リバプールのことになると、地元紙の番記者らしく、強いリバプール弁を丸出しにして饒舌になる。

 サラーが爆弾発言をしてから、その真意をめぐり、さまざまな憶測が英メディアに氾濫した。そのなかで最も秀逸だったのがポールの記事だった。

 結論から記してしまうと、このポールの記事の副題にもあった通り「サラーはリバプールと新契約を結びたがっている」となる。つまり、あの発言は“新契約の交渉を始めよう”と、クラブに呼びかけたものだったのである。

 ポールはまず、サラーがまるで新加入選手か、今季こそレギュラーをつかもうと躍起になっている若手選手のように、アルネ・スロット新監督のプレシーズンに最初から参加した意気込みに“並外れたもの”を感じたという。

 その意気込みのすごさは、若手中心のプレシーズン・トレーニング中に行われた6分間走で32歳エジプト人が1位となったことからも分かる。“若い足”に混じって、走り勝ったのだ。

かつての同僚マネの「二の舞はごめん」

マネ(中央)がリバプールを離れたのが2022年夏。昨季からサウジのアル・ナスルでプレーするが、欧州でこのセネガル人FWが話題になることはほぼなくなった 【Photo by Yasser Bakhsh/Getty Images】

 昨年8月、サウジアラビアのアル・イテハドから移籍金1億5000万ポンド、日本円にして約286億円という途方ないオファーがあった。しかも年俸はリバプールの3倍以上である1億2740万ポンド(約243億円)だと報じられた。エジプト人で敬虔なイスラム教徒として知られる宗教的同胞のサラーに対し、サウジアラビアがまさに天文学的な報酬を提示して勧誘した。

 ところがサラーは動かなかった。ポールの記事によると、この決断には元同僚で、5シーズン前にプレミアの得点王を分け合ったサディオ・マネの境遇が影響しているという。

 マネはリバプールからバイエルン・ミュンヘンに移籍した後、わずか1年でサウジ・プロリーグのアル・ナスルに移籍した。金銭的には年俸4000万ユーロ、日本円で約64億円と、リバプール時代の3倍以上の報酬を受け取ることに成功した。

 しかし欧州のトップリーグとの比較で数段落ちる試合のレベル、空席が目立つスタジアム、そして世界のサッカーメディアからの注目度も急降下する環境で1年プレーすると、マネが欧州のメディアで話題に上ることはなくなった。

 ポールはこうしたマネの状況に対し、サラーの関係者から「サラーが“マネの二の舞はごめんだ”と言っている」という証言を引き出している。

 もちろんプロである限り報酬にはこだわるが、最終的にはカネだけではない。クラブ・フットボールの頂点はやはりヨーロッパにある。そのなかでも最も激しく熱いプレミアリーグで1日でも長く輝き続けること。それがサラーの1番の望みであるのだ。

 またサラーはリバプールで育った愛娘マッカちゃんを「リバプールっ子」と呼び、7年間プレーしたクラブの地元に対する親愛の情も露わにしている。

 選手も結局は人間なのだ。移籍に伴う環境の変化に対応するのは容易ではない。当然ながら外国への移籍は大変だ。しかも家族がいるならなおさらである。もしもその選手がクラブを愛し、そのクラブの街を愛し、家族もその環境に馴染んで愛着が深まれば、移籍を決断するのは難しくなるばかりだ。

 マンチェスター・U戦後、サラーの一挙手一投足に注目が集まるなか、本人が「来季以降の去就は全く考えていない」と語り、「今シーズンが最後」とした発言のニュアンスを弱めた。一方、リバプール側は衰え知らずの32歳のエジプト人に対し、新契約をオファーする準備を急速に進めているという。

 ポールは「もし問題が起こるとすればリバプールがオファーする年俸の金額」と指摘するが、そこはクラブ側も近年の最大の功労者に対する敬意を含んだオファーを提示してもらいたいと願っている。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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