2日間にわたる国内史上最大規模の7大世界戦プラス1開催 秋の世界戦ラッシュ【10月のボクシング注目試合①】

船橋真二郎

「Amazonプライムビデオ」の10回目のビッグイベント

左から世界屈指の軽量級大国・日本が誇る岩田翔吉、寺地拳四朗、中谷潤人、井上拓真、田中恒成、ユーリ阿久井政悟、堤聖也、那須川天心 【写真:船橋真二郎】

 10月13日、14日、東京・有明アリーナで行われる「Prime Video Boxing 10」は、7大世界戦に那須川天心(帝拳)の初タイトル戦がプラスされたビッグイベント。ひとつのイベントで7つの世界戦開催は国内史上最大規模になる。

「Amazonプライムビデオ」が2022年4月9日、さいたまスーパーアリーナで村田諒太(帝拳)とゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)が激突したビッグマッチ、WBA・IBF世界ミドル級王座統一戦で参入して以来、日本のプロボクシングは本格的な配信時代に突入し、早2年が過ぎた。

 そのトップランナーが独占ライブ配信する記念すべき10回目のビッグイベントは、世界屈指の軽量級大国・日本の誇る世界王者、トップボクサーたちが彩る。

井上拓真が堤聖也と“因縁の再戦”、拳四朗は2階級制覇へ=13日

井上拓真と堤聖也は固い握手で健闘を誓い合った 【写真:船橋真二郎】

 1日目、13日のメインを飾るWBA世界バンタム級タイトルマッチは注目の日本人対決であり、同級生対決。井上拓真(大橋/28歳、20勝5KO1敗)が同級2位の堤聖也(角海老宝石/28歳、11勝8KO2分無敗)を迎える一戦は12年前の夏、高校2年時のインターハイ準決勝で井上が堤にポイント勝ちしており、“因縁の再戦”になる。

 兄・井上尚弥(大橋)がバンタム級の世界4団体のベルトを手放したときから、4団体統一を目標に掲げてきた井上は「気持ちが強くて、すごくタフな選手」と堤を評し、「向こうはリベンジという気持ちで来ると思うけど、自分がしっかり返り討ちにして、次のステージに行きたい」と力強く宣言。世界初挑戦となる堤は「ボクシングIQ、技術がすごく高い選手。完成度が高くて、崩すのが大変そう」と王者に敬意を表し、待望の一戦に向けて「ずっと胸にあった高校時代のリベンジ、世界のベルト(奪取)が一緒に達成できたら、これ以上ない」と熱い思いを語る。
 前WBA・WBC世界ライトフライ級統一王者の寺地拳四朗(BMB/32歳、23勝14KO1敗)はWBC世界フライ級王座決定戦に出場する。同級1位として、6年半前に比嘉大吾(志成)をストップした元同級王者で、2位のクリストファー・ロサレス(ニカラグア/29歳、37勝22KO6敗)と2階級目の世界ベルトを争う。

 手術をした右拳の状態も良好な寺地は「より強い拳四朗を見ていただけたら嬉しい」と新たな階級で心機一転。ここ数戦は打ち合いで会場を沸かせてきたが、ディフェンス意識を見直し、従来の前後の動きにサイドの動きを取り入れるなど、改善を加えてきた。それでも「熱い試合はする」と基本的な姿勢は変えない構え。どんな戦いを見せるか注目したい。同イベントで他の世界2団体のフライ級戦も行われることに「ワクワクする」とライトフライ級では達成できなかった4団体統一を見据える。

 そのひとつであるWBA世界フライ級タイトルマッチで、王者のユーリ阿久井政悟(倉敷守安/29歳、20勝11KO2敗1分)は2度目の防衛戦に臨む。挑戦者は同級7位のタナンチャイ・チャルンパック(タイ/24歳、25勝15KO1敗)。2ヵ月前、名古屋で畑中建人(畑中)にプロ初黒星をつけ、WBOアジアパシフィック王者となったばかりでビッグチャンスをつかんだ。

 寺地の参戦もあり、「すごく盛り上がってきていて、注目されてる階級ではあるので、フライ級に阿久井あり、というのを見せたい」とWBA王者。持ち前のプレスにさらに磨きがかかり、ガードも堅く、巧みで崩しづらくもなってきたが、もともと9つもの初回KO、TKO勝ちで名前を売ってきただけに、一瞬のスピードとタイミングに優れた一撃を持つ。若く勢いのある挑戦者を世界戦初のKOで下し、存在感を示したい。

 元日本、東洋太平洋、WBOアジアパシフィック王者で、WBO世界ライトフライ級1位の岩田翔吉(帝拳/28歳、13勝10KO1敗)の2022年11月以来となる世界戦も決まった。空位のWBO王座を懸け、同級2位のハイロ・ノリエガ(スペイン/31歳、14勝3KO無敗)と戦う。

 2年前の初挑戦は、サウスポーで足の速い当時の同級王者、ジョナサン・ゴンサレス(プエルトリコ)を捕まえきれず、判定を落とした。ノリエガも動く選手でテーマは同じ。この2年を「苦しい時間もあった」と振り返るが、乗り越えてきた分、「精神的な部分で強くなれたと自負している」と胸を張る。この間、元IBF世界ミニマム級王者を含め、フィリピン人に4連続KO勝ちを収めた。ダイナミックな一発が魅力だが、磨きをかけてきたボディでノリエガの足を効果的に止められれば、「インパクトを残す試合」が見えてくる。

中谷潤人、田中恒成がKO誓う、那須川天心は初タイトルへ=14日

それぞれの階級で統一戦を望む中谷、田中、初タイトルを狙う那須川 【写真:船橋真二郎】

 14日のメインであり、2日間のビッグイベントを締めくくるのはWBC世界バンタム級タイトルマッチ。世界3階級制覇王者の中谷潤人(M.T/26歳、28勝21KO無敗)が同級1位のペッチ・ソー・チットパッタナ(タイ/30歳、76勝53KO1敗)と2度目の防衛戦に臨む。中谷にとっては5年ぶりのサウスポー対決。「そういったところも楽しみにしながら、しっかり自分の強さを発揮できる体をつくりたい」と恒例のロサンゼルス合宿で仕上げてきた。

 ペッチは2018年暮れに来日、井上拓真とバンタム級のWBC暫定王座を争い、判定で敗れた選手。好戦的なサウスポーに対し、「KOを目標にアクションを増やしていきたい」と話していた中谷。もちろん、1日目のメインの結果次第ではあるのだが、共通の相手となるペッチをKOで退ければ、互いに対戦希望を表明する井上との王座統一戦に大きなアピールとなる。

 WBO世界スーパーフライ級王者の田中恒成(畑中/29歳、20勝11KO1敗)は、7月に臨むはずだった初防衛戦を対戦相手の体重超過で前日に失った。が、自身の無念さ以上に気にかけていたのが試合を楽しみにしてくれた人たち、サポートしてくれた畑中清詞会長、トレーナー陣の心情だった。「その分もいい内容で、満足してもらえるような、すっきりした勝ち方がしたい」。そう世界4階級制覇王者は力を込めるのだ。

 迎えるのは「テクニカルで、ディフェンス力が高い選手」と評する同級5位のプメレレ・カフ(南アフリカ/29歳、10勝8KO3分無敗)。2022年12月に大差の判定で下した同国人、ヤンガ・シッキボに通じるところもあると語る挑戦者に対し、「しっかり駆け引きをする中で、追い詰めて倒したい」と意気込む。熱望する統一戦を引き寄せるためにもインパクトを残すつもりだ。

 7月の戴冠戦に続き、再び盟友・中谷潤人と競演するWBO世界フライ級王者のアンソニー・オラスクアガ(米・帝拳/25歳、7勝5KO1敗)。日本のファンに愛称・トニーも浸透してきた新王者は初防衛戦でWBO世界ライトフライ級王座を返上し、1位にランクされたジョナサン・ゴンサレス(33歳、28勝14KO3敗1分)を迎える。

 岩田翔吉が追い詰め切れなかった動く標的をどう捉えられるか。勝利のカギはそこにある。巧くプレスをかけ、間合いを詰められれば、5年前にフライ級時代の田中恒成が攻め落としたようにボディへの強打が生きてくるはず。この先にトニーが望むのは統一戦であり、自身に唯一の黒星をつけた寺地拳四朗へのリベンジ。フライ級戦線をさらに盛り上げられるか。

 注目を集めたボクシングデビューから1年半。すでにWBA、WBC世界バンタム級3位にランクされる那須川天心(26歳、4勝2KO無敗)が初のタイトル、西田凌佑(六島)の世界奪取で空位になったWBOアジアパシフィック・バンタム級王座を懸け、ジェルウィン・アシロ(比/23歳、9勝4KO無敗)と戦う。

「(ボクシングでの)自分のスタイル、動きが分かってきた」。WBA4位を鮮やかに倒した7月の前戦で、その言葉を体現した那須川。「KOを狙いにいったわけじゃなくて、全部、流れの中で戦うことができた」と納得の表情を浮かべた。相手のアシロはWBOの地域タイトルを獲得して上昇してきた無敗の若手だが、圧倒的なスピード差を始め、個々の能力値で大きく上回る。自分の流れ、“呼吸”の中に相手を取り込み、那須川らしい華々しい勝利で、世界への足掛かりとなるベルトを勝ち取りたい。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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