2日間にわたる国内史上最大規模の7大世界戦プラス1開催 秋の世界戦ラッシュ【10月のボクシング注目試合①】

船橋真二郎

13日、14日の有明アリーナで生まれそうな記録は?

高校時代に同じ階級でしのぎを削った95年組。左から岩田翔吉、ユーリ阿久井政悟、井上拓真、田中恒成、堤聖也 【写真:船橋真二郎】

「Prime Video Boxing 10」の発表会見でも話題になったのが、このビッグイベントに同じ1995年度生まれが田中恒成、井上拓真、ユーリ阿久井政悟、岩田翔吉、堤聖也と5人も出場すること。田中が「全員と対戦経験がある」と振り返ったように、この5人全員が高校時代に同じ階級でしのぎを削ったライバルというのも特筆すべきだろう。

 この黄金世代の「95年組」はすでに井岡一翔、宮崎亮、亀田大毅、小國以載、木村翔の「88年組」と並ぶ世代別最多タイ5人(田中、井上、阿久井、比嘉大吾、山中竜也)の世界王者を輩出している。1日目に出場の岩田、堤には記録更新がかかる。

 これに対抗して(?)、会見で「自分には注目しているし、98年組がすごく楽しみ」と言って、報道陣を笑わせたのが那須川だった。現在の最年少世代の世界王者は「99年組」の重岡銀次朗(ワタナベ)だが、まだ「98年組」からは誕生していない。

 那須川のほか、この9月25日に日本ミニマム級新王者となった帝拳ジムの同門・松本流星、前日本同級王者の高田勇仁(ライオンズ)、WBOアジアパシフィック同級王者の小林豪己(真正)など、今のところ「98年組」の王者経験者は最軽量級に集中する。誰が一番手となるか。

那須川天心は「98年組」の一番手となるか 【写真:船橋真二郎】

 ちなみに90年代生まれで、ほかに世界王者を輩出していないのは「94年組」。現在、この世代で最も世界に近いのが17日、後楽園ホールで移籍初戦でもある“世界前哨戦”を行うIBF世界スーパーフェザー級3位の力石政法(大橋)だろう。最近まで世界王者が出ていなかった「96年組」からは、今年5月に西田凌佑、武居由樹(大橋)と一気に2人が誕生している。

 その他の記録では、井上尚弥がトップに立つ国内世界戦通算勝利数(23勝)、同KO数(21KO)で寺地拳四朗にトップ3入りの可能性がある。KO戴冠なら世界戦通算14勝で並んでいる具志堅用高を抜いて単独3位、同KO数で10KOの内山高志(ワタナベ)に並んで3位タイとなる。

 また世界戦7勝6KO無敗の中谷潤人は、前回の左ボディストレート一撃による衝撃の初回KO勝ちで西岡利晃(帝拳)、田中恒成を抜いて世界戦通算KO数でトップ10入り。今回もKO勝ちなら7KOでホルヘ・リナレス(帝拳)に追い着いて9位タイとなり、8KOで7位タイの長谷川穂積(真正)、渡辺二郎(大阪帝拳)に迫る。

矢吹正道が2年7ヵ月ぶりの世界返り咲きで兄弟同時王者へ

2018年8月20日、弟・力石政法の後楽園ホール初試合を兄・矢吹正道(右)がサポートした若きツーショット。当時から兄弟同時世界王者の夢を口にしていた 【写真:船橋真二郎】

 12日の愛知県国際展示場(常滑市)では、元WBC世界ライトフライ級王者の矢吹正道(LUSH緑/32歳、16勝15KO4敗)がIBF世界ライトフライ級王者のシベナティ・ノンティンガ(南アフリカ/25歳、13勝10KO1敗)に挑戦する。大激闘の末の10回TKO勝ちで、この階級の絶対王者だった寺地拳四朗をストップし、殊勲のベルト奪取を果たしたのが2021年9月。が、6ヵ月後のダイレクトリターンマッチで痛烈なKO負け。あれから2年7ヵ月――。待ちわびていたチャンスが訪れた。

 この間、世界ランカー、元世界ランカー相手に3戦全TKO勝ち。世界戦をアピールし続けてきた矢吹だが、昨年5月に左足アキレス腱断裂の重傷を負い、1年2ヵ月のブランクをつくったこともあった。一戦必勝の思いは強いはず。ノンティンガも一度は手放したベルトを今年2月のダイレクトリマッチで奪還した。長短いずれの距離もこなす両者の戦いは、最終的に激戦となる予感がする。

 この5日後にリングに上がる前出の力石政法は矢吹の実弟になる。力石は「僕らの夢が同時に世界チャンピオンになってること。兄が先にチャンピオンになることで、より僕の思いも強くなると思うので、兄に期待してます」と話していた。念願の世界返り咲きを果たし、弟を鼓舞したい。試合の模様は「ABEMA」でライブ配信される。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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