日中親善対抗戦に臨む期待の新人ボクサーたちをクローズアップ “ミニマム級祭り”も開催【9月のボクシング注目試合②】

船橋真二郎

異なる熱気に包まれる日中親善対抗戦

大将の堀池空希は「日本の強さを証明したい。全員で勝つ」と気合い 【写真:船橋真二郎】

「WHO'S NEXT DYNAMIC GLOVE on U-NEXT」&「G.O.A.T.MATCH vol.4 日中平和友好 4V4 親善試合」が9月21日、東京・後楽園ホールで開催され、日本と中国の8名のボクサーたちが激突する。

 日中親善対抗戦はDANGANプロモーションが2017年に初開催し、その後も不定期に実施してきたが、コロナ禍もあって中断。昨年5月1日に「G.O.A.T.MATCH」として再開し、今回で5度目になる(昨年8月は「DANGAN日中対抗戦」として開催)。

 中国人ボクサーは総じて荒削りだが、頑丈で、気持ちが強く、洗練された日本人ボクサーの手を焼かせてきた。中国人ファンも多く来場し、「加油!加油!」(日本語で「頑張れ」)の大声援が沸き起こるなど、いつもとは異なる熱気に包まれる。

 再開後の対戦成績は日本の通算12勝7敗。中国の健闘が光る。今回のメンバーに選ばれた日本の4名は、いずれもアマチュア経験者で今後が期待される若手たち。それぞれの試合にかける思い、プロフィールを紹介し、「U-NEXT」がライブ配信する新人ボクサーの競演をクローズアップする。

有名な空手家を父に持つセンスあふれる中量級ホープ

「自分は勝手に日本を代表してると思ってるんで。しっかり勝って、日本の強さを証明したいと思います」

 日本の大将格として熱く意気込みを語ったのは堀池空希(ほりいけ・ひろき、横浜光/22歳、2勝2KO無敗)。メインのスーパーライト級8回戦でサウスポーのワン・ラクセン(中国/9勝6KO1敗)と対戦する。

 今年4月の中国人選手とのプロデビュー戦、フィリピンに遠征した6月の2戦目と2連続初回KO勝ち。いずれも左ボディでテンカウントを聞かせた。計3分にも満たない短い時間の中でも攻守を連動させるスムーズな動きにセンスを感じさせ、何より一発一発、拳で正確に芯を捉える感覚が目を引いた。

 ミット、ボディプロテクターの上から受けても「体の奥までグッと入ってくる感じ」と石井一太郎・横浜光ジム会長もうなずく。

 東洋大4年時の全日本選手権ライトミドル級で準優勝、3年時、4年時と2年続けて階級賞に選ばれ、関東大学リーグ戦、全日本大学王座決定戦の2連覇に貢献というアマチュア経歴だけでは表しきれないバックグラウンドがある。

「しっかり拳を当てないとグローブのない空手だと手首を痛めることもあるし、しかも効かないので。空手で自然と身に着いた感覚なのかなと思います」(堀池)

堀池はデビューから2戦連続、左ボディで初回KO勝ち 【写真:ボクシング・ビート】

 極真空手の世界大会準優勝など、数々の実績を残した空手家・堀池典久さんを父に持つ。まだ物心つく前、2歳の頃から父の道場で稽古に励んだ。が、空手一筋ではなく、小学2年からは野球に打ち込んだ。そんな経験も今の柔らかな身のこなしにつながっているのかもしれない。

 転機は中学2年。父の道場が主催するアマチュアキックボクシング大会に約1週間前に欠場者が出て、代役で出場することになった。この間も週1、2回は空手の稽古を続けており、見事に勝利を飾った。「自分がしたかったんはこれや」。レギュラーの座をつかんでいた硬式野球チームはすっぱり辞めた。

「同じ年代の子が仮面ライダーとかを見てるとき、僕は魔裟斗さんの時代のK-1ばかり見てて、ずっとやりたかったんですけど。(特に顔面に)コンタクトのあるキックは小学生には危ないからと父親がやらせてくれなかったので」

 兵庫・西宮香風高時代はプロキックボクサーとして活躍。3年になる頃だった。蹴り主体の選手だった堀池はパンチを上達させたいと強豪のボクシング部の門を叩く。これが2度目にして大きな転機となった。

 監督に「インターハイに出てみないか」と誘われ、「高校で最後、今しかできひんことに挑戦してみよう」と決断。短期間で出場を決めた。本大会ではミドル級の1回戦を突破し、2回戦で敗退も、このただ1度の全国大会で元プロの日本スーパーバンタム級王者でもある三浦数馬・東洋大監督の目に留まった。

 今度はきっぱりとキックを辞め、その年のリーグ戦で史上初の優勝、初の日本一にも輝く強豪からの誘いを受けた。

「キックの攻撃は手、足の4本でボクシングは2本だけ。その中でパンチを当てるのがめっちゃ難しかったんですけど、駆け引きしながら当てていくのが、パズルを組み立てるとか、謎解きに正解するみたいでめちゃくちゃ楽しくて」

 プロ2戦の鮮やかなKO勝ちで、アグレッシブな強打者と見る向きもあるようだが、「スピードと駆け引き」が持ち味のテクニシャン。「倒してるからって、変に過信することなく、いつも通りやろうと思います」と自分を見失うことはない。

 ワンは日本未公認ながら地域タイトルも獲得。記録サイトに未掲載の8月11日の前戦では、現・日本ライト級7位の齋藤眞之助(石川)とダウン応酬の末に惜敗し、一部関係者の間で話題になったアヌソン・トーンルエン(タイ)をあっさりと2回KOで下しており、これまでの相手より一段上。「まだ自分の長所は全然、出せてない」という中量級ホープの実像が見えてくるかもしれない。

「(相手のワンは)しっかり組み立ててくるタイプなので、見応えのある駆け引きが見せられると思う」と堀池。その上で「KOで勝って、大会を締めくくりたい」と宣言。日本のチームメイト「全員で勝ちたい」と力を込めた。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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