「BIG4」時代の“終わりの始まり” 男子テニス界は新旧世代の戦国期へ

秋山英宏

男子シングル決勝でヤニク・シナーがストレート勝ちを収め、全米OP初優勝を飾った 【Photo by Matthew Stockman/Getty Images】

新世代を代表するシナーが全米OPを制覇

 現地時間9月8日、全米オープンはヤニク・シナー(イタリア)の初優勝で幕を下ろした。男子のイタリア勢としても大会初優勝となった。

「このタイトルにはとても大きな意味がある。僕はテニスが大好きで、こういう大事な舞台のためにたくさん練習するんだ」

 優勝インタビューでシナーが勝利をかみしめた。今季は全豪で四大大会初優勝。初Vの年に2つ目のタイトルをつかむのは、男子では1968年のオープン化(プロ解禁)以降3人目で、1977年のギリェルモ・ビラス(アルゼンチン)以来、約半世紀ぶりの快挙だ。

 長い腕をむちのようにしならせ、スピードボールを打ち出す。フォア、バックとも、速度と重さ、すなわち十分なスピン量を兼ね備えた、質の高いストロークを持つ。動きのよさも出色だ。現代テニスで高速でのダッシュ&ストップや切り返しは必須だが、シナーのフィジカルの土台は複数の競技で養われた。幼いころからスキーに親しみ、次に好きだったのがサッカーで、テニスは3番目だった。

 決勝でも、圧巻のコートカバーリングから攻撃的なストロークを放ち、サーブ力のあるテイラー・フリッツ(米国)を圧倒した。両者の走行距離は第1セットこそ互角だったが、セットを追うごとにシナーが大きく引き離した。アンフォーストエラー21本という堅実さは、走って、追いつき、しっかりした体勢から強い球を打つという、地道なプレーの結果にほかならない。

 今季の四大大会優勝者は全豪と全米がシナー、全仏とウィンブルドンが21歳のカルロス・アルカラス(スペイン)と、男子ツアーの次の盟主となるべき2人が仲よくタイトルを分け合った。

「BIG4」時代の終わりを予感させる大会に

かつての“絶対王者”ノバク・ジョコビッチは全米OPでは3回戦で敗退 【Photo by Sarah Stier/Getty Images】

 時代は変わろうとしている。ロジャー・フェデラー(スイス)の引退に続き、アンディ・マリー(英国)が先のパリ五輪で引退。ラファエル・ナダル(スペイン)も今季限りでの引退が濃厚で、今大会は出場を回避した。

 四大大会で前人未踏の24勝を上げた37歳のノバク・ジョコビッチ(セルビア)が孤軍奮闘するが、威光には陰りが見られる。パリ五輪で念願の金メダル獲得を果たしたが、過密日程もあって「ガス欠」に陥り、今大会は3回戦で敗退した。対戦相手の25歳、アレクセイ・ポピリン(豪州)は前哨戦で優勝するなど進境著しいが、四大大会で4回戦に進出したことがなかった選手だ。

「金メダルを取るためにたくさんのエネルギーを費やしたので、ニューヨークに到着したときには、精神的にも肉体的にもフレッシュとは言えなかった」

 よもやの敗戦を喫したジョコビッチは、魂が抜けたようだった。この3回戦敗退をもって衰えをうんぬんすべきではない。しかし、メジャータイトルが五輪の金メダル一つという1年は、輝かしいジョコビッチ時代、あるいは男子テニスに君臨した「BIG4」時代の“終わりの始まり”を予感させる。

 2003年ウィンブルドンでのフェデラーの四大大会初優勝から21年――。BIG4はその03年以降、84回のグランドスラムのうち69大会でタイトルを握った。フェデラー、ナダル、マリー、ジョコビッチの誰かが、毎年必ず四大大会のタイトルを取った。だが今年は、02年以来22年ぶりに、四大大会優勝者リストからBIG4の名前が消えた。

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著者プロフィール

テニスライターとして雑誌、新聞、通信社で執筆。国内外の大会を現地で取材する。四大大会初取材は1989年ウィンブルドン。『頂点への道』(文藝春秋)は錦織圭との共著。日本テニス協会の委嘱で広報部副部長を務める。

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