「BIG4」時代の“終わりの始まり” 男子テニス界は新旧世代の戦国期へ
新旧交代の波に抗うディミトロフの意地
ベテランのグリゴル・ディミトロフが8強入りと意地を見せた 【Photo by Matthew Stockman/Getty Images】
下肢の負傷は前哨戦から持ち越した。調整に苦労したが、なんとか全米に間に合わせた。
「体への負荷、練習方法とそれに費やす時間を増やした。これまでとはまったく違うペースで調整をする必要があった。本当に限界を超えた経験だった」
ディミトロフは、自分の肉体に、33歳という年齢に、必死で抵抗した。21年全豪から3年間、四大大会8強はなかったが、30代での復活だ。ディミトロフは「秘密も近道も何もない」と言ったうえで、「僕は決してあきらめず、努力するのをやめず、信じることをやめなかった」と言葉を継いだ。
ベテランが戦う相手は年齢だけではない。よりパワフルで、よりスピードが増した現代テニスに抗う必要がある。ディミトロフは言う。
「僕は何世代もの選手を見てきた。最近は、すべてが非常に速いペースになり、だれもが自分のやりたいことをやっている。より強く、ショットを打っている」
191センチ、81キロと均整のとれた体のディミトロフは、スピードとパワー、技術の最高のバランスを誇った。しかし今の若い世代のテニスには少々、難儀しているようだ。
ベスト4を占めた次代の主役候補たち
決勝に進出した26歳のテイラー・フリッツ 【Photo by Sarah Stier/Getty Images】
フリッツとドレーパーは、四大大会初の4強入りだった。球脚の速いハードコートで行う全米ならではの顔ぶれであり、パワーテニスの4人が残るのも、2024年という時代を象徴する。なお、英国選手の全米4強は、12年のマリー以来12年ぶりだった。マリー引退から数週間、入れ替わるように同じ英国のドレーパーが躍進したのも不思議な因縁だ。
ティアフォーは、独特の表現で世代交代が進んだことを言葉にした。
「準々決勝に進んだと思ったら、相手はラファ(ナダル)。さあ、飛行機のフライトを調べるか――今はそんな状況ではないさ」
BIG4はそれくらい高い壁だった、ただ、そういう状況は変わりつつある、と言いたいのだろう。
とはいえ、若い世代には足りないものがあるのも確かだ。
準決勝でシナーに敗れたドレーパーは、暑さと湿度の高さで体調を崩し、試合中に何度か嘔吐した。気の毒だったが、これも男子テニスの過酷さを示している。ドレーパーは体調不良についてこう明かした。
「今日は湿度が高かった。試合はフィジカルの戦いだった。トッププレーヤーと対戦すると激しさが違う。レベルが上がる。今日は明らかにいつもより興奮し、少し緊張していた。その状況が重なると、コート上で少し気分が悪くなることもある」
勝ったシナーも「厳しい試合だった。フィジカルの戦いだった」と振り返る接戦だった。これを別にすれば、この大会のドレーパーはほぼ盤石だった。サーブ力は大会屈指。準々決勝までの5試合で計63回あったサービスゲームで、3度しかブレークを許さなかった。足りなかったのは、体力というより、大舞台での経験だったのかもしれない。ドレーパーは談話の中で、何度か「経験」という言葉を口にした。
「僕は学び続け、成長し続け、今日のような状況を経験する必要がある。そのうえで、次回はどのように違うやり方をするか。それが一番大事だ。今後、このような状況にもっと頻繁に出合い、乗り越えられるようにできたらいい」
ドレーパーは、同年代ですでに頂点に立ったシナーやアルカラスの名前を上げ、四大大会の準々決勝や準決勝の場数を踏むこと、そこで負けを経験する大切さを強調した。ランキング25位。こういう選手が上位に定着すると、男子テニスの今後の活況は確かなものになる。
ウィンブルドンで決勝を戦ったジョコビッチとアルカラスの年齢差は15歳348日だった。これを上回る年齢差の選手による四大大会決勝は、1974年全米までさかのぼらなくてはならない。39歳のケン・ローズウォール(豪州)と22歳ジミー・コナーズ(米国)の対決で、年齢差は17歳304日だった。
この数字が示すのは、今は新旧世代の王者が共存する、言葉を換えれば新旧が激しく争う、希有な時代であることだ。
ジョコビッチやディミトロフが健在なら、もう少しの間、世代間バトルが楽しめる。願わくは、そこに34歳の錦織圭にも参戦してほしい。