日本バレーボール界の底上げへ ヴォレアス北海道が創る「SVリーグの未来」

田中夕子

クラブ発展のため「集客にとことん向き合う」

集客を高めるため、試合会場の演出やホスピタリティにもこだわる 【VOREAS,INC.】

 企業を母体とするチームならば、チームの収益の7~9割を母体企業からのスポンサー収入が占める。だが地域に根差して活動するクラブチームであるヴォレアス北海道の場合は、200社に及ぶ企業からのスポンサー収入は約5割、残りはチケット収入とグッズや会場での飲食などの売上が担うため、どれだけ多くの人に会場へ足を運んでもらうかがクラブ経営の生命線といっても過言ではない。

 池田氏も「集客にとことん向き合うことがプロスポーツチームとしての究極であり、僕らは危機感が違う」と言うように、集客を第一に考え、ホームゲームの演出やホスピタリティに重きを置き、チケット販売はすべてデジタル。マーケティングも同時に行い、実際にチケットを買って試合会場へ足を運ぶ人たちの年齢や傾向を分析。そのデータをもとに、積極的なプロモーションも行って来た。

「一番大事なのは、こういうクラブがある。ここで試合をしているという認知を取ることで、次に大切なのが試合に『行きたい』と思わせること。そしてその人たちがチケットを買える、その一連の流れがスムーズでなければダメなんです。これは僕らだけでなく、リーグ全体の課題でもあり、今年からチケットの購入システムも変わるので、より慎重にクラブのHPやSNSを通して細かく情報発信をしてきました」

 人口が100万人を超える政令指定都市ではなく、旭川市の人口は約32万人。東京や大阪といった大都市に比べると「そもそも分母が違うので、人を集めるのが大変」と苦笑いを浮かべるが、クラブがより大きく発展していくためにはより多くの試合をして、人を集めて得られるチケット収入は不可欠。「そのために絶対的に必要なのが“見る”ことに特化した非現実空間」と言うように、新アリーナ構想も少しずつ動き出したが、現実となるのはまだ少し先の話。まず今シーズン、どれだけの集客が見込めるかがクラブ経営においても重要なキーとなるが、すでに三期に分けて販売された年間シートの売上も「予想以上に好調」と言い、加えて、ファンクラブの入会数も昨年を上回っている。その要素を、池田氏はこう分析する。

「SVリーグへの期待感や、オリンピック直後のシーズンであること。男子バレー人気もありますし、単純にヴォレアスが見たいという方もいれば、他チームの選手を目当てにしている方もいると思いますが(笑)、会場に来てバレーボールを見てもらえることに代わりはない。僕らとしては大歓迎です」

 特に、今シーズン最大のターゲットとする試合が10月19、20日に行われる旭川でのホーム開幕戦だ。対戦するのは昨シーズンの覇者、サントリーサンバーズ大阪で、今季から加入した髙橋藍選手の存在も大きい、と池田氏は言う。

「もちろん強い相手ですし、もしかしたらホームなのにホームにならず、“髙橋藍一色”じゃないかという懸念もあるんですけど(笑)、僕らは集客することが大事なので、髙橋藍選手、サントリーさん、ありがとう、しかないですよね。髙橋藍選手を見たい、と地元の人が足を運んでくれて、僕らの試合を見る中で、次からは地元のチームを応援しようというきっかけになるかもしれない。このきっかけ、動機をつくるのがめちゃくちゃ大変なんです。でもそれを髙橋藍選手という存在が担ってくれる。そこからは僕らが魅力的なチームであると証明しないといけない。試合はもちろんですが、会場、演出でどれだけ伝えられるかという勝負です」

SVリーグが世界一になるために必要なこと

バレーボール界の頂点を目指し、新生SVリーグでの戦いに挑む 【VOREAS,INC.】

 SVリーグ元年、日本代表選手だけでなく各国代表の中心を担うトップオブザトップの選手が集うチームも多く、池田氏は自虐ではなく冷静に「多くの方々が、僕らが優勝するなど無理だと思っているはず」と言う。だが、集客に力を注ぎ、収益を増やしクラブとしての規模が大きくなれば、数年先には違う未来も見えてくる、と池田氏は断言する。

「地上波で生中継されたBリーグ開幕戦(2016年)はアルバルク東京と琉球ゴールデンキングスが対戦して、アルバルクが圧勝しました。でも今はどうか。キングス、広島ドラゴンフライズ、千葉ジェッツ、企業を母体としないクラブチームが優勝するのも当たり前になった。なぜか。稼げる仕組みができてクラブチーム側に伸びる余地があり、伸ばしきった結果、事業規模が大きくなってチームが強くなったからです。今のバレー界でそのポジションにいられるのは僕らだけ。だからこそ僕らが強くなり、大きくなることで証明したいですし、それができれば地方からもSVリーグを目指すチームが増える。そうなることが日本のバレーボール全体の底上げであり、SVリーグが世界一になるためには絶対に必要なんです。今はまだまだ資金力のあるチームに集客も実力も及びませんが、どんどん牽引してもらってSVリーグの魅力を伝えたいし、僕らは着実に実力をつけて追いつき、追い越すことが役割だと思っています」

 たとえ今は“下剋上”でも、いつかきっと。北海道から、日本を代表するクラブへと変貌を遂げる底力を持っている。ヴォレアス北海道が創る未来が、SVリーグの未来にもつながっていくはずだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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