ファンクラブ会員3倍増、最多観客記録の「1万人企画」 参入2年目の東京GBがバレー・Vリーグで見せる“ハッピーな”ファン戦略
昨季記録した8142人のリーグ最多観客数。今季も「10,000人プロジェクト」をかかげ、さらなる更新を目指している 【写真:東京グレートベアーズ】
成績は現状7位だが(全10チーム、2月17日時点)、日本代表選手を多く擁する上位チームにもひけをとらない多くのファンを集めているのだ。
「バレー界は伸びしろだらけです。スポーツビジネスで定石とされることをやりながら、今季もいろんな数字が上がって感触をつかんでいます」
そう話したのが、チームディレクターの原口攻太氏だ。同氏はVリーグの広報やスポーツマネジメント会社の経営などを経て2022年6月、東京GBに運営スタッフとして加入した。前身のFC東京が休部となり、消費財メーカーのネイチャーラボに継承されたタイミングだった。
もともとチームの母体は1948年に創部された東京ガスのバレーボール部で、2003年にFC東京へ移行された。
だが2021-22シーズン中に休部が決まり、ネイチャーラボが経営を引き継いだ。その際、2019-20シーズンまで選手として所属した野瀬将平(現在はドイツのSWDパワーバレー・デューレンに所属)が譲渡先を探して奔走し、ビジネス面で相談に乗ったのが原口氏だった。
「譲渡先を探す段階から我々はプロクラブという形を望んでプレゼンし、ネイチャーラボ側も『プロだからこそやってもいい』となりました。近い将来、独立採算でやっていくように求められています」
選手からスタッフ転身の宮原氏「バレー界をもっと夢のある業界に」
東京GBの営業部に在籍する宮原和輝氏が、現役選手だった頃を回顧する。
「実業団の頃は東京ガスの仕事をしていて、練習時間も短かったです。ファンクラブやグッズをつくればいいのにと思っても、当時の環境では難しい面もあって……。劣等感をずっと抱いていました」
FC東京時代、選手の多くは東京ガスの関連会社に正社員として在籍。宮原氏は朝8時に出社し、昼まで安全靴を履いてガス栓を締める作業などに携わった。午後3時から始まる練習に行くと、すでに仕事で疲れている。練習後、ウエイトトレーニングの頃には消耗し、満足のいく成果は得られなかった。
FC東京が休部となって2022年6月にネイチャーラボへの譲渡が決まると、宮原氏は東京GBの営業部員に転身した。チームがプロとして生まれ変わるタイミングを千載一遇の機会と捉えたからだ。
「バレー界をもっと夢のある業界にしたいのが一番の思いです。実業団の頃は1日24時間、バレーのために頭を使えていなかったけれど、今の選手はプロとして結果を残すために何を食べて、どれだけ睡眠を取り、1日をどうすごせばいいかと組み立てられる環境にあります。体育館も1日中使えるし、プロになって明らかに変わりました」
「カッコいい」より「かわいい」
チームカラーのピンクはアリーナでもインパクト抜群だ 【写真:東京グレートベアーズ】
東京GBはスローガンをそう掲げ、スポーツビジネスの発想を取り入れた。さらにドラッグ業界にクリエイティビティを持ち込んだネイチャーラボの強みも活かし、参入1年目からファンを増やしている。
大きな特色は、観客の8、9割が20〜40代の女性という点だ。流行への感度が高く、コト消費に積極的で、プロスポーツが特に引き込みたい層とされる。
こうしたファンの心をつかむべく、東京GBが意識するのは「かわいい、楽しい、ハッピー」だ。宮原氏が説明する。
「メインターゲットの違いもありますが、“カッコいい”という見せ方はバスケや野球がすでに行なっている印象です。一方、ネイチャーラボの特徴は商品にクリエイティブを入れて部屋のインテリアとしても置いておけるようにし、楽しい生活を提供すること。活動方針に『クリエイティブインパクト』を掲げ、ネイチャーラボグループのバレーバージョンのつもりとして取り組んでいます」
日本のプロスポーツチームの多くは、親会社のカラーが反映されている点が特徴だ。例えばプロ野球のソフトバンクやDeNA、楽天ならIT、Bリーグの島根スサノオマジックにはバンダイナムコエンターテインメントが追求するエンタメ性がよく表れている。東京GBはネイチャーラボの強みも取り入れながら、ファンベースを固めている最中だ。
東京GBの公式HPの「PLAYERS」を見ると、こだわりがよく伝わってくる。各選手の写真が白黒で掲載されているのだ。一般的なスポーツチームの選手名鑑のように正面写真を一律に並べるのではなく、それぞれが異なるポーズを決めているから見た目にも楽しい。
ユニフォームのピンクとネイビーという色は、FC東京の赤と青をモチーフに変更された。いずれもプロのデザイナーが入り、どうすれば「楽しく、ハッピー」になれるかが突き詰められている。