パラ競泳・木村敬一が快挙、支えた五輪メダリストも涙 全盲の選手指導で新たな学びも

C-NAPS編集部

競泳男子バタフライ100メートル決勝で、木村(左)はパラリンピック新記録で連覇を成し遂げた。銅メダルを獲得した富田と喜び合う 【写真は共同】

 9月6日(日本時間7日)、競泳男子バタフライ100メートル決勝(視覚障害S11)が行われ、東京大会で金メダルの木村敬一(東京ガス)が、1分00秒90のパラリンピック新記録で連覇を達成。同じく決勝に出場した富田宇宙(EY Japan)が1分03秒89の3位で銅メダルを獲得した。木村は男子自由形50メートルでも優勝しており、今大会で2冠を成し遂げた。

 試合後のインタビューでは、「ベストが出る気配しかなかった」と晴れやかな表情で語った木村。従来の記録を0秒22更新する1分00秒台の会心の泳ぎに、「東京では結果的に金メダルが獲れたけど、パリでは金メダルを獲りにいったので、この結果はだいぶ嬉しい」とこれまでの取り組みが成果として表れたことへの喜びを爆発させた。

 ディフェンディングチャンピオンとして男子バタフライ100メートルに臨んだ木村にとって、パリまでの3年間の道のりにはどんな苦労や挑戦があったのか。北京大会から3大会連続で五輪出場を果たし、ロンドン、リオデジャネイロの女子バタフライ200メートルで2大会連続となる銅メダルを獲得。さらにはパリに向けて木村への泳ぎの指導に携わった星奈津美さんに、今大会の快挙の裏側について聞いた。

フォーム改善で大会新記録という「最高の結果」に

星さんとともにバタフライのフォーム改善に取り組んだ木村。その成果をパラリンピック記録更新という最高の形で発揮してみせた 【写真は共同】

 木村選手にとっての今大会の男子バタフライ100メートルは、フォーム改善、新しい泳ぎへのチャレンジと位置づけた中での集大成として捉えていました。もちろん、「集大成」はこれが最後という意味ではなく、私も泳ぎの指導に携わった木村選手の一連の取り組みにおいて一区切りという意味合いです。

 そんな集大成の場で、トレーニングの成果を遺憾なく発揮し、パラリンピック新記録で連覇を成し遂げてくれました。レース前には「1分00秒台を出せたら最高だな」と思っていたのですが、本当に出しましたね。

 木村選手は4~5年にわたり自己ベストを更新できていなかったので、この大舞台で日本新記録、さらにはパラリンピック新記録でもある1分00秒90のタイムで泳ぎ切ったことにものすごく感動しました。木村選手は東京大会でも同種目で金メダルを獲得していますが、記録としては本人が望んでいるレベル感ではなかったようです。それだけに、今回はもちろん連覇についても偉業ですが、金メダル以上に前人未到のタイムで泳ぎ切ったことに感激しました。

 私は現地で観戦していましたが、感動して泣いているところがテレビでも映っていたようですね(笑)。会場のみんなが興奮するほどすごいことを成し遂げてくれましたし、木村選手自身が殻をひとつ打ち破ってくれたことが純粋に嬉しかったです。私自身も競技者だった立場からして、30歳以上の年齢で自己ベストを出すことのすごさは分かるので、本当にとてつもない快挙を目の当たりにしました。

パラリンピックで垣間見られたリスペクトの精神

レース後にお互いの健闘を称え合う富田(左)と木村。パラリンピックの会場は、選手へのリスペクトを強く感じさせる雰囲気があった 【写真は共同】

 私はパラリンピックを現地観戦したのは初めてでしたが、会場はものすごい盛り上がりでした。パリなのでフランスの自国の選手に対する声援が一番すごいのはもちろんですが、フランス以外の国の選手にも毎回盛大な拍手が贈られて、温かい雰囲気に包まれていたと思います。他国を敵視する雰囲気がまったくなく、みんなで盛り上げようとする一体感については、もしかしたら五輪以上かもしれません。

 木村選手が所属する東京ガスの大応援団を筆頭に日本からもたくさんの人たちが観戦に駆けつけていました。木村選手が金メダル、富田選手が銅メダルという結果を残したことで、他国のファンが日本人応援団に「おめでとう!」と祝福の言葉を直接かけてくれるなど、本当にアットホームの素晴らしい雰囲気の会場でしたね。

 また、富田選手の存在も木村選手が本領を発揮するうえで大きかったと思います。普段のやり取りからも互いにリスペクトしている様子が伝わってきます。私が木村選手の指導を始めたタイミングでは、「キムのことよろしくね!」と富田選手は気さくに声をかけてくれました。レース後に富田選手とも少し話せましたが、「キム、速すぎるよ(笑)!おめでとう!」と祝福してくれました。東京大会に続いてまた2人で表彰台に立てたのも、本当に素晴らしいことですね。

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著者プロフィール

ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。

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