パラ競泳・木村敬一が快挙、支えた五輪メダリストも涙 全盲の選手指導で新たな学びも
パリでの栄光を目指した木村と星さんの歩み
記念写真に笑顔を見せる木村(左)と星さん。金メダリストを指導することは、人知れず苦労や迷いもあったという 【本人提供】
ただ、「泳ぎを見ないことにはなんとも……」と思い、合宿の水中映像をじっくり見させてもらいました。チェックしてみると実際に改善できそうなところはいくつかあったので、私自身もこのプロジェクトに挑戦してみることにしたんです。
木村選手が今大会で最高の結果を残したので、3年間の道のりが順風満帆だったように思う方も多いかもしれませんが、決してそうだったとは言えません。2023年8月に英国・マンチェスターで開催されたパラ競泳世界選手権の男子バタフライ100メートルでは、木村選手は銀メダルで優勝を逃しています。「今の調子でパリは大丈夫かな」と心配しましたし、1年前のタイミングでパリでのこの活躍を想像できませんでした。
木村選手、コーチ、そして私という3人で、フォームの改善に取り組みましたが、その歩みは本当に3歩進んでは2歩下がる、2歩進んでは3歩下がるような前進と後退を常に繰り返す日々でした。それでもフォーム改善をやり切ることができたのは、木村選手の人柄があってのことです。ネガティブな感情になることがなく、常に前向きにチャレンジする姿勢を貫いていました。「チーム木村は楽しそうだね」と周囲からも言われましたし、木村選手の姿勢や努力が今回の快挙につながったのは言うまでもありません。
気づいたのは指導における「言語化」の重要性
全盲の木村を指導するうえで重要になるのは、言語化して具体的に教えること。指導を通して星さんは、感覚でやっていた泳ぎをより理論的に説明できるようになった 【本人提供】
私は泳ぎの感覚を言語化することを、現役時代はあまり意識していませんでした。木村選手への改善点を提案する際も、「どう伝えれば、より泳ぎが良くなるのか」を常に考えていました。自分たちが当たり前にやっていることが、ブラインドだとまったく当たり前ではないということに、気づかせてもらった経験は私自身の財産になりましたね。
今後は他のアスリート同士でもオリンピアンとパラリンピアンの垣根を越えた交流が増えるといいですね。私の現役時代は、同じ日本代表でも練習場所は違いましたし、開催の時期も異なるので、オリンピアンとパラリンピアンが交流する機会はほとんどありませんでした。私自身、指導を通して多くのことを学ばせてもらいましたし、自分の知識や経験を伝えられた面もあると思います。互いに刺激し合える環境や機会が増えれば、オリンピアンとパラリンピアンの両者にとって良い気づきになるのではと期待しています。
星奈津美(ほし・なつみ)
【株式会社RIGHTS.】