日本代表初選出も「サプライズ」ではない 望月ヘンリー海輝が持つオンリーワンの可能性

大島和人

望月ヘンリー海輝(町田)が代表初招集を受けた 【(C)FCMZ】

 日本サッカー協会は8月29日、ワールドカップアジア最終予選(9月5日・中国戦/9月10日・バーレーン戦)に向けた日本代表メンバーを発表した。

 27名中20名がヨーロッパのクラブに所属する選手で遠藤航、久保建英ら定番メンバーも顔を揃えている。冨安健洋は負傷で招集外となったが、三笘薫と伊東純也の復帰は代表サポーターにとっては嬉しいニュースだろう。

 今夏のパリオリンピックに参加したU-23代表メンバーからはDF高井幸大、FW細谷真大が招集されている。最年少の高井とともに代表初選出となるのが、望月ヘンリー海輝(FC町田ゼルビア)だ。ヘンリーの愛称で親しまれる彼のメンバー入りは、多くのメディアやファンからサプライズとして受け止められている。

アスリート性は世界レベル

 望月は192センチ・81キロの大型右サイドバック(SB)で、2001年9月20日生まれの22歳。国士舘大を卒業後、町田に加入したばかりのルーキーで、父はナイジェリア出身と聞いている。世代的にはパリ五輪世代(U-23)だが、大岩剛監督のチームには一度も招集されていない。にもかかわらず、チームメイトのGK谷晃生、DF中山雄太とともにこのタイミングでA代表から声がかかった。

 高校時代からプロ入り後まで望月を観察している筆者にとって、招集はそれほどサプライズでなかった。特に2024年4月以後のパフォーマンスと成長曲線を見て、いずれ日本代表に入るべき選手だと確信していた。今回は橋岡大樹の負傷もあり、森保一監督はここで試してみようと判断したのだろう。

 近年の日本サッカーは、右SBにアスリート性が高い選手を配置する例が多い。2023年卒の関東大学サッカーリーグに限っても望月、モヨマルコム強志(藤枝MYFC)、長澤シヴァタファリ(水戸ホーリーホック)といった大型のアスリート系SBが目立っていた。パワー、勢いでサイドの「アクセント」となり、攻撃の幅と深みを作れるタイプだ。

 まず望月の走力はJ1でもトップレベルだ。スピードにも様々な種類はあるが、望月は10メートル、20メートルとスプリントが「伸びる」タイプ。また1試合の走行距離が長く、上下動を繰り返せる持久力の持ち主でもある。

 跳躍力も圧倒的だ。このレベルになるとヘディングには技術と駆け引きが必要で、望月はセットプレー時などのヘディングにまだ改善点がある。とはいえ「身長+跳躍力」の合計は走力と同様にJ1最高レベルだろう。フィジカル面はSBとして理想的で、間違いなくワールドクラスだ。

 さらに素晴らしいロングスローの持ち主でもある。もっとも望月がロングスローを投げる側に回ると、そのヘディングが活きないジレンマがあり、実戦ではあまり投げていない。

国士舘大3年夏の全国大会でブレイク

「高さ」は圧倒的な武器になる 【(C)J.LEAGUE】

 三菱養和SCジュニアユース、ユース時代の望月は埋もれた存在だった。同期の栗原イブラヒムジュニア(現SC相模原)は早くから年代別代表の常連で、実際に高卒でプロ入りを果たしている。望月はFW、サイドハーフ、SB、CBと様々なポジションで起用されたものの、今のようなダイナミックなプレーを試合で見せていた記憶がない。

 ただ国士舘大進学後に、望月は台頭した。大学3年夏の第46回総理大臣杯全日本大学サッカートーナメントでは、右SBのレギュラーとして全国制覇に貢献している。当時の彼は内側のスペースから攻め上がり、エリア内にも飛び出すユニークな攻撃参加をしていた。

 プレーは明らかに粗削りで、先輩MFが献身的なカバーリングで望月を「自由に動けるようにしてあげている」状況が見て取れた。本人も大阪学院大との決勝戦における自らのプレーを「最低だった」と後に振り返っていた。それでも筆者が望月の強烈な可能性に気づいた試合だ。

 そこから大学3年冬、4年夏と徐々に「SBらしさ」が増していく。どこに飛ぶか怪しかった右足クロスもそれなりの精度が出るようになり、大学4年の5月には町田の内定も発表された。もっとも当時の町田はJ2だったし、争奪戦になるような評価は受けていなかった。

プロ入り直後は壁に苦しむ

監督やコーチ、先輩のサポートを得ながら成長を遂げている 【(C)J.LEAGUE】

 背が高くても、足が速くても、サッカー選手として成功するとは限らない。「止める蹴る」はもちろんだし、判断力や集中力、コミュニケーション力とあらゆるものがこの競技には必要だ。しかも2024年の町田はカテゴリーがJ2からJ1に上がり、J1経験を持つ実力者たちが新たに加入していた。強烈な強みを持ちつつ、課題も多い望月が試合に絡める保証はなかった。

 ただしチームと黒田剛監督からは「望月にチャンスを与えよう」という意図が当初から感じられていた。J1開幕戦のガンバ大阪戦(2月24日/1-1△)は味方に退場者が出た中でサイドハーフとして途中起用された。決していい出来ではなく、その後はしばらくJ1では出番がなかった。

 3月10日のトレーニングマッチではJ3・SC相模原相手に苦しいプレーに終始。硬い表情でコーチからフィードバックを受けていた様子をよく覚えている。「壁があるな」「少し時間はかかるな」というのが、その時点の予想だった。

 しかし適応と成長のスピードは想像以上だった。望月は4月14日のヴィッセル神戸戦で途中出場のチャンスを得ると、同21日のFC東京戦では先発に抜擢。先制点をアシストするなど、勝利に貢献するプレーを見せた。

 ここまで28試合中11試合に先発していて、見た試合によって「なぜ望月が代表なのか?」という感想を持つ人もいるだろう。ただ、いい出来の彼は手のつけられないプレーをする。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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