日本代表初選出も「サプライズ」ではない 望月ヘンリー海輝が持つオンリーワンの可能性

大島和人

必要な「いい意味でのオラオラ感」

キャプテン昌子も望月へのアドバイスを続けてきた 【(C)J.LEAGUE】

 優しい――。これは黒田監督、昌子源キャプテンが揃って口にしていた望月の評価だ。アスリートにとって、必ずしも褒め言葉ではない。

 望月がブレイクするきっかけとなった4月21日のFC東京戦後に、黒田監督はこう述べていた。

「初戦のガンバ戦に途中から出たときは、かなり緊張して入っていました。彼の優しい性格から、なかなか闘志をむき出しにするタイプではないですけど、経験を通じて彼のストロングが徐々にフィットしてくれるのかなと思っています」

 昌子は同じ試合の後にこう口にしていた。

「返事で『こいつ絶対ええ奴や』って分かります。パチンと行きたいところを、少し遠慮してしまったり、ヘディングもあれだけ高いのに遠慮してしまったり、優しさを感じます。そこは直してもらおうと思って、彼には厳しいことを言う機会が多くあります」

 望月はワールドカップ出場経験もある先輩DFからの指導についてこう語っていた。

「セットプレーの守り方、試合の運び方、メンタルの持ち方と多くを教わっています。ミスをしてもいい意味で割り切る、プレーが続いていく中で引きずっていたら次のプレーにも影響してしまうことを昌子選手からよく言われます。上のレベルで活躍している方は人と違う、いい意味でオラオラ感があります。自分はそれをあまり持てていないので、そこは見習っていきたい部分です」

黒田監督の評価はまだ辛口

黒田監督はなお「課題」を指摘する 【(C)J.LEAGUE】

 3時間後に代表招集が発表されると知らなかった筆者は、8月29日の取材で黒田監督に望月の評価を尋ねた。このような答えが返ってきた。

「守備面において、あの身体能力だからこそカバーできていることは誰もが認めていると思います。ただオン・ザ・ボールのときの攻撃の感覚はまだまだで、小学生でもやらないミスをしてしまうところも結構あります」

 黒田監督は0-0で引き分けた8月25日のアルビレックス新潟戦後も、記者会見で望月が85分にクロスを躊躇した場面についてこう「ダメ出し」していた。

「明らかに守備陣の連携が崩れている、なかなかマークがつけてない状況で、ダイレクトで入れられる場面でした。その方が相手も嫌だったのに、一つコントロールをして、1対1を仕掛けてスローインにしてしまった。相手に時間を与えたことは反省すべきポイントと思って、厳しくアプローチしました」

 代表入りを果たした今も、黒田監督には望月をレギュラーに安住させる意志はなさそうだ。

「(同じポジションの鈴木)準弥も虎視眈眈とチャンスを狙っています。ヘンリーに安心感、もう定着しているという感覚を植え付けさせないためにも、まだまだ迷っているところを見せていかなければいけません」

 厳し目のコメントはメディアを通した、黒田監督から彼へのメッセージなのかもしれない。望月の取り組みと、今後についてはこう述べていた。

「ヘンリーは居残りでかなりクロスの練習をしています。これはもう本数やらせていくしかないし、自分で自分の形を作るしかない。ただ素材だけで終わるか、日本の武器となるのかは、これからどのように磨いていくかによると思います」

「2026年」の戦力に

メンタル面も「アスリートらしく」なっていくだろう 【(C)J.LEAGUE】

 アスリートとして、SBとして、「理想のメンタルの持ち主」は長友佑都ではないだろうか。長友は陽性の性格でユーモアがあり、程よく自信もあり、常に堂々としている。優しく慎ましい望月は間違いなく好青年なのだが、典型的な人見知りキャラで、長友のような「いい意味でのオラオラ感」がまだない。

 もっとも望月は22歳の若者だ。実績、地位そして経験が人間を作る部分も少なからずある。実際に今の日本代表にも、プロ入り直後は今の望月以上に人見知りで自信なさげだった選手がいる。彼はコーチ、先輩から愛されるナイスガイで「真面目さ」「練習に取り組む姿勢」も持ち合わせている。あとは時間とともに、メンタル的に成熟していけるだろう。

 町田というクラブとの出会いもよかった。まず練習環境が良く、指導が手厚く、一方で要求は厳しい。チーム内の一体感があり、いい意味で「おせっかい」な先輩もいた。望月は決して完成した選手ではないが、J1の首位を争うチームの要求に応えようともがく中で、間違いなく成長している。

 望月の強みを一言にまとめるなら意外性だ。アスリートとして「ここから行けるの?」「これに届くの?」というサプライズに満ちている。オン・ザ・ボールでも彼には長い脚を生かした独特の「抜き方」「マークの外し方」がある。町田が4-0と快勝した8月17日の磐田戦でも足裏、ヒールなどを使った遊び心を感じるプレーを見せていた。

 そのアスリート性、意外性は日本サッカーの中でもオンリーワンと言っていい。彼は晩熟で、今夏のパリオリンピックに間に合わなかった。9月5日の中国戦、10日のバーレーン戦に勝つことだけを考えるなら、もっといいチョイスがあるかもしれない。

 しかし2026年のワールドカップまで、あと2年ある。その可能性と成長曲線を見れば、望月の招集は自然なチョイスだ。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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