広島に「勝ち点2差」まで迫られた首位・町田 新潟戦の無得点から見える攻撃面の課題とは?

大島和人

伸びしろは「ピヴォ」の動き

FWが「タメ」を作れれば攻撃はより機能する 【(C)J.LEAGUE】

 キャプテンの昌子源も攻撃については、ほぼ同様の分析だった。

「芝生が長くてやり辛かったので、リスクは極力避ける展開でした。両チームの攻撃陣はボールが収まらず、ウチもイージーなロストが多かったです」

 さらに前向きな「課題」も口にしていた。

「縦の短いクサビは後半に増えた中で、ピヴォ(ポルトガル語で「軸」「中心」の意味/布陣の先端・中央)で1秒でもキープしたら、出した人が潜ったり(※中央の狭いスペースから侵入して入れ替われる動きが)できました。そこで横にトラップして突かれるとか、横へのトラップが長くなるとか、そのようなイージーなミスがありました」

 新潟戦のやや守備的で慎重なゲームプラン、攻撃の方向性が間違いだったかといえばおそらく違う。一方で個人戦術、個の意識で変えられた部分もあるというのが、キャプテンの見解だった。

「ロングボールがウチは多いかもしれないですけど、そこで勝っているんですよね。相手の嫌がることを、こちらからやめる必要はない。ただピヴォで1回どっしり構えて1秒、0.5秒でも作れれば、パスをつけた人が潜れる。潜ってくるのを使うフリをしてもいいし、使ってもいい。キープを1回見せるから、相手のセンターバックがあまり来なかったりする。そういうのがアイディア的に少ない気はします」

 町田の2トップは得点力が高く、しかも献身的で、チームの強みとなっている。オ・セフンは194センチ93キロ、セカンドトップの藤尾翔太も184センチ78キロと大柄で、技術的にも悪くない。

 J1レベルのDFを反転で振り切る、個人技だけで打開することは確かに難しい。とはいえ彼らのパワーとスキルを見れば1タッチで落とすだけでなく、より「収める」「食いつかせる」狙いがあっていい。DFを背負いつつ2,3秒……、いや1秒でも時間を作れれば、近い距離感の連携で崩す可能性は上がる。

 また駆け引きとして「キープ」「反転」を相手に意識付けられれば、1タッチパスへの対応は鈍くなる。25歳のオ・セフン、23歳の藤尾ならばそんな「ひと伸び」を期待してもいいはずだ。

優勝には「背伸び」が必要

昌子は町田でも数少ない「J1優勝争い」の経験者 【(C)FCMZ】

 ともかく町田はJ1の残り10節で首位にいる。初昇格で、開幕前には優勝を目標に挙げていなかったクラブが、否応なく「アレ」を意識せざるを得ない立場となった。クラブは中山雄太、相馬勇紀といった欧州帰りの日本代表経験者も獲得し、千載一遇の好機を生かす意志を示している。

 とはいえ広島が6連勝と走っている間に、町田は2勝2分け2敗と足踏みしていた。難敵・新潟に負けなかったことを喜べない状況だ。

 昌子はこう口にしていた。

「ルヴァンカップだったらここ(アウェイ)での引き分けは御の字かもしれないけど、今回はリーグだし、引き分けでOKな時期ではない。残り10節で、引き分けがOKになるのは負けを引き分けに持っていけた展開くらいです。苦しい試合でしたけど、それでももぎ取って、勝たなければいけない。それを持ってくる力が、まだウチには足りません」

 当然ながら彼も危機感を強く持っている。

「このチームは(優勝争いを)経験している選手が少ないし、チームとしてもJ2でしかしたことがない。広島さんは6連勝する前にあまり勝ち点を伸ばせてなかっただけで、町田が首位という感覚はありません。町田もここから良くはなっていきますけど、広島さんに(勝ち点差)2まで詰められた危機感はあります」

 確かにこの1年で昌子、中山、相馬、谷晃生と日本代表経験者がチームに4人加わった。一方でオ・セフンや藤尾はレギュラーとしてJ1をフルシーズン経験するのが初めてだし、急成長の望月に至っては「プロ1年目」だ。昌子が口にするようにライバルチームに比べれば町田の経験値は低く、個々の課題も少なからずある。

 そんなチームが優勝を勝ち取ろうとするなら、短期間の成長と「背伸び」が前提となる。昌子はこう強調する。

「まだ首位だからこそ気づいて、変えていこうという思いもあります。2位・3位・4位となって、上に何チームかいる状態で気づいたらもう遅かった」

 新潟戦は「結果に対する反応」に町田の変化と、優勝を目指す姿勢を感じた試合だった。このスコアレスドローを、選手たちの変化、成長を引き出すきっかけにできるかどうか――。それが8月31日に国立競技場で開催される浦和レッズ戦に向けた、夏休み最後の「宿題」となる。

2/2ページ

著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント