MLBポストシーズンレポート2024

球場が揺れたフリーマン劇的満塁弾の裏にある、WSをめぐる忌まわしき「事件の記憶」【WS第1戦】

丹羽政善

10月25日(現地時間)に開幕した、ドジャースとヤンキースによるワールドシリーズ(WS)。第1戦は十回、ドジャースのフレディ・フリーマンにサヨナラ満塁本塁打が飛び出し、6-3で勝利。劇的な幕切れとなった 【Photo by Daniel Shirey/MLB Photos via Getty Images】

 小刻みに、記者席が揺れた。

 延長十回、右足首を痛め、全力疾走ができないフレディ・フリーマン(ドジャース)が2死満塁で打席に入ると、初球を引っ張った。打球が右翼席に消えると、客席は蜂の巣をつついたような騒ぎに。そのとき、足元が揺れていた。

 おそらく、あのときもこんな感じだったのだろうか。

 1988年のワールドシリーズ第1戦。ナ・リーグチャンピオンシップシリーズで左太ももと右膝を痛め、スタメンを外れていたカーク・ギブソン(ドジャース)が、1点ビハインドの九回2死、走者を一人置いて代打で起用されると、右翼席へ逆転サヨナラ2ランを放った。残っている映像を見る限り、映像がぶれている。つまりは客席が揺れ、カメラが揺れていたのだ。

 ワールドシリーズ史上、九回2死からの逆転サヨナラ本塁打は、この2本だけ。

サヨナラ満塁本塁打を放ち、チームメイトに迎えられるフレディ・フリーマン(ドジャース)。まるで世界一になったかのような、歓声に包まれた 【Photo by Daniel Shirey/MLB Photos via Getty Images】

球場が凍り付いた「2つの事件」

 そのホームランが出るまで、実は2つの事件を思い出していた。

 一つは「スティーブ・バートマン事件」。2003年のナ・リーグチャンピオンシップシリーズ第6戦でカブスは7回まで3対0とリードし、58年ぶりのワールドシリーズ出場まであと5アウトと迫っていた。

 八回表1死二塁の場面で、ルイス・カスティーヨ(マーリンズ)が左翼へファールフライを打ち上げた。レフトのモーゼス・アルー(カブス)が、フェンス際で捕球体勢に入ったものの、スティーブ・バートマンというカブスファンが手を伸ばし、捕球を妨害。その後、カブスは大量8点を失って敗れると、第7戦も落としてしまった。

 そのファンが敗退のスケープゴートとされたことは容易に想像できるが、今もスティーブ・バートマン事件として語り継がれている。

 もう一つは、1996年のア・リーグチャンピオンシップシリーズ第1戦。オリオールズに1点をリードされていたヤンキースは八回、デレック・ジーターが右翼に大きな当たりを放った。フェンス際、入るかどうか――というところだったが、ジェフリー・メイヤーという少年が、フェンスから身を乗り出してキャッチ。それが本塁打と判定された。

 もちろん、ライトを守っていたトニー・タラスコ(その後、2000年に阪神でプレー)は守備妨害を訴えたものの、認められなかった。同点としたヤンキースは延長でサヨナラ勝ち。そのままシリーズも制した。

2対2の同点で迎えた九回、グレイバー・トーレス(ヤンキース)が放った左中間への大きな当たりを見つめる、ドジャースのマイケル・コペック 【Photo by Alex Slitz/Getty Images】

 なぜ、その2つの事件かといえば、同点の九回2死走者なしで打席に入ったグレイバー・トーレス(ヤンキース)が左中間へ大きな当たりを放つと、フェンス際でドジャースファンが手を伸ばし、ボールを捕ってしまったのだ。その瞬間、球場全体が凍りついた。

 即座に二塁塁審が守備妨害を宣告し、リプレイでも判定が覆ることはなかったが、時代が時代なら、どんな結末を迎えていたか。
 打たれたマイケル・コペックは天を仰いだ。

「ホームランだと思った。やってしまった、と」

 守備妨害の判定に心から安堵した。

「もう、救われた――そんな思いだった」

 2死二塁となったが、フアン・ソトを敬遠し、ドジャースはなんとアーロン・ジャッジと勝負。ここでは代わったブレーク・トライネンが、ジャッジをショートフライに仕留めた。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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