パリ五輪のアーティスティックスイミングは“印象点”なしの一発勝負 日本代表・中島HC「最後の最後まであきらめずに」

沢田聡子

パリ五輪出場枠がかかった2024年世界選手権、フリーで銀メダルを獲得した日本チーム 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

ASを根底から変えた新ルール

 アーティスティックスイミング(以下AS)の選手たちは、新ルールの下で戦う初めての五輪となるパリ大会を迎えようとしている。

 2023年から施行された新ルールは、ASを根底から変えた。旧称のシンクロナイズドスイミングの時代から、ASはいったん定まった序列を覆しにくいと言われてきた。しかしルール改正により、過去の成績に関係なく当日の出来次第で勝負が決まるスリリングな競技に変貌したのだ。

 従来は100点満点だったが、新ルールではスコアの上限がなくなった。フィギュアスケートのように各要素の基礎点が定められ、DD(degree of difficulty、難易度)が勝敗を大きく左右する。試合前に技を実施する順序とDDを記入したコーチカードを提出するが、この時点でDDに大差があれば、本番で勝負することすらできない。一方、試合でコーチカードの申告通りに技が実施されなかったとみなされると、DDはベースマーク(最低難易率)・または0点となり、大きく点を失うことになる。

 選手とコーチ陣は、どこまでリスクをおかしてDDを上げるかという難しい判断を迫られる。他国の動向を見て演技の構成を変える必要があり、日本代表も7月上旬に行われたワールドカップ・スーパーファイナル(ハンガリー・ブダペスト)の結果を考慮して、DDを上げる調整を直前まで行ってきた。世界選手権と違い予選がない五輪は、“一発勝負”の緊張感が高い大会となりそうだ。

 パリ五輪ではチーム競技に男子が2名まで出場することが可能になり、男子の五輪初出場が期待されていた。しかし、世界選手権よりもエントリーできる選手の人数が少ないことも影響したのか、最終的にはパリ五輪出場選手として男子を登録した国はなかった。

 2021年に行われた東京五輪まで圧倒的な強さを誇っていたロシアが参加しないパリ五輪では、どの国にもメダル獲得のチャンスがあるといえる。とはいえ、2024年2月に行われた世界選手権(カタール・ドーハ)において、五輪で行われるチーム・デュエットの全種目で金メダルを独占した中国は、やはり優勝候補の大本命かもしれない。

 チーム競技では、世界選手権ドーハ大会のアクロバティックルーティン(以下AR)・フリールーティン(以下FR)で銅メダルを獲得したアメリカ、テクニカルルーティン(以下TR)で銀メダルを獲得したスペインが、パリ五輪でもメダルを狙う。

 日本代表は、チームのパリ五輪出場枠獲得がかかった2024年世界選手権ドーハ大会ではAR7位と出遅れた。しかしTRで銅メダル、FRで銀メダルを獲得して追い上げ、シンクロナイズドスイミングが正式種目になった1984年ロサンゼルス五輪から続く全競技出場の歴史を守った。

 パリ大会のASは、過去の五輪とは逆順で行われ、チームから始まりデュエットで終わる。チーム競技は8月5日(日本時間6日未明)から始まり、TR、FR、ARの順番で行われる3種目の合計点で順位が決まる。名前の通りアクロバティックな技が多く華やかなARは、五輪で行われるのは今大会が初となる。

 7月7日に行われた日本代表公開練習で、中島貴子ヘッドコーチ(HC)は、パリ五輪の戦い方について語った。

「私たちはまずチームのテクニカル・フリーで技術力の差をしっかりみせて、DDはとにかく私達のできる最高難度を目指して、その中でも完璧を目指す。そこでしっかり中国と並べるぐらいの技術力をアピールして、アメリカやスペインを離したいというのがまず前半戦。最終種目のアクロバティック(ルーティン)に関しては、他国が自信を持って出してくると思うので、とにかく私たちにできる最大限のことをして、悔いなく戦いたいと思います」

「まず今回は、チームから始まるので。試合の流れは本当に大事で、初戦で落としたら苦しくなる、というのはある。とにかくチームのテクニカル・フリーで日本のいいところを前面に出しアピールして、他国と点差をつけてアクロバティック(ルーティン)を迎えたい。何が起こるか分からないので、『最後の最後まであきらめずにやる』という意気込みです」(中島HC)

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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