チームFRで銀メダル、有終の美を飾ったマーメイドジャパン 自信のプログラム『チェス』で、中国を上回る芸術点獲得

沢田聡子

「メダルがあるのとないのでは全然違う」チームFR決勝への覚悟

最後に行われたチーム種目の決勝、チームFRで銀メダルを獲得した日本 【写真は共同】

 福岡の観客が送る大声援の中で、日本は勢いあふれる『チェス』を泳ぎ切った。

 世界水泳選手権福岡大会で、マーメイドジャパン(アーティスティックスイミング、以下AS、日本代表)は7つのメダル(金4・銀1・銅2)を獲得する好成績を挙げている。どの国も今季から施行された新ルールへの対応に苦しんでおり、日本も例外ではなかったが、その中でも予選の失敗を決勝では修正する適応力の高さをみせた。

 日本はチーム種目でも、7月17日に行われたアクロバティックルーティン決勝で銅メダルを獲得している。ただ18日のテクニカルルーティン決勝では、新ルールでは致命的となるベースマーク(最小の難度点となる)がつき、4位に終わってメダルにはとどかなかった。

 デュエットにも出場している安永真白は、銅メダルを獲得したデュエットフリールーティン(以下FR)決勝(20日夜)の表彰式後、チームFRにかける思いを語っている。
「私は一昨日のチーム・テクニカルの時に4位で、メダルをとれなくてすごく悔しい思いをして。そこから挑んだ今日のデュエットFRだったのですが、実際にメダルをもらって『メダルがあるのとないのでは全然違うな』と感じていて、『やっぱりメダルをとりたい』という思いがすごく強くなった。明日のチームFRでも、必ずメダルをとりたいと今は思っています」

 20日午前中に行われたチームFR予選に出場した日本は、3位で決勝に進んでいる。FR予選でもとられたベースマークを回避できるかどうかが、FR決勝では勝負の分かれ目になると思われた。

プールサイドに出る間際まで振り付けを確認

キャプテンの吉田も気に入っていると話すルーティン『チェス』 【写真は共同】

 チーム最後の種目となる21日のチームFR決勝、9番目に登場した日本の選手達が陸上でのリフトを見せると、客席から大きな歓声が湧く。今季から採点対象となった陸上動作は、振付師のKAORIalive氏の指導を受けて作り上げているという。

 中島貴子ヘッドコーチとKAORIalive氏の振り付けによる『チェス』は、昨年ブダペストで行われた世界選手権でも泳ぎ、銅メダルを獲得しているルーティンだ。2季連続で泳いでいることで、「自分達の体に染みついている」とチームキャプテンの吉田萌は自信を持っている。

 ただ新ルールでは、事前に申請する時にある程度DD(Degree of Difficulty、難度点)が高い演技構成にしないと、泳ぐ前から勝負できなくなる恐れがある。DDを稼ぐため、今大会でも、どの国もハイブリッドと呼ばれる無呼吸で行う高難度の足技を詰め込む傾向にあった。

 日本チームの『チェス』も新ルールに対応した構成に変えており、「ハイブリッドはルールに沿ってやっているので、あまりチェスを意識はできていない」と決勝後のミックスゾーンで取材対応した吉田も認めている。しかし「トランジション、つなぎの部分に関しては、チェスをイメージした振り付けをつけて」と表現にも意識を向けていることを強調した。

「最後の方は『自分達の結果にもチェックメイトする』というふうに決めている振り付けもあるので、気に入っているプログラムです」

 熱を込めて語る吉田の周りで、他の選手達もうなずいていたのが印象的だった。

 FR決勝の熱気を帯びた雰囲気の中でプールに飛び込んだ日本が最初のリフトに挑み、ジャンパーが高く宙に舞うと、再び大歓声が起こった。過去には日本の弱点ともいわれていたリフトを見事に成功させて勢いに乗ると、8人はさらに生き生きと躍動する。

 チェスの駒を体現する選手達は、リフトをすべて成功させ、ハイブリッドでも切れ味鋭い動きをみせる。終盤、手を振り上げてチェックメイトを宣言すると、2つ連続して行う最後のハイブリッドを決め切った。

 ノーベースマークで泳いだ日本だが、得点は317.8085で首位の中国(329.1687)には及ばなかった。しかし芸術点では126.7500をマークして中国(126.2500)を上回っており、『チェス』の完成度の高さをスコアでも示したといえる。

 選手達は、プールサイドに出る間際まで振り付けの確認を行っていたという。中島コーチは「(予選から)ベースマークになりそうな動きをすべて修正しました」と語り、5か所変更して臨んだことを明らかにしている。

 吉田は「一つ間違えてしまったら申請している技と変わってしまうので、本当に間違えられない状況」と振り返った。
「集中して、考えて考えて泳いで、やっと泳げたという感じです」
「一個真っ白になってしまったら本当に命取りなので、頭と心が疲れました」

 中島コーチも、選手達をねぎらった。
「選手達は振り付けを変更したことで不安な気持ちを持っていたと思いますが、最後の最後までしっかり泳ぎ切ってくれたので、本当に『頑張ってくれてありがとう』と思っています。2位という結果を残すことができて、みんなを信じて、選手同士もお互い信じて良かったなと思います」

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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