AS日本代表、パリ五輪は上がり続ける難度点への挑戦 チームの取り柄は「常にポジティブ」

沢田聡子

公開練習では、テクニカルルーティン『Cool Japan』を披露した比嘉もえ(左奥)と佐藤友花 【写真:松尾/アフロスポーツ】

難度点がなければ戦えない、パリ五輪のAS

 パリ五輪に出場するアーティスティックスイミング(AS)日本代表は7日、都内で練習を公開した。練習終了後にメディアに対応した中島貴子ヘッドコーチ(HC)は、初の五輪に臨む今の心境を語った。

「Aチーム代表コーチになって数年経つのですが、ここまで死に物狂いというか、結果を出すためにどうするかというのを日々考え続けて過ごしてきたので。今考えれば、本当にあっという間にオリンピックが来たと思っています。あと残り30日で本番ですが、残りの30日をとにかく大事にしたいなと思います」(中島HC)

 また、チーム・デュエットに出場する比嘉もえは、5日に行われた結団式に出席し、五輪が近づいていることを感じたという。

「本当にもう『いよいよ迫ってきているんだな』という実感が湧いた」(比嘉)

 パリ大会は、新ルールの下でASが行われる初めての五輪となる。2023年3月の大会から施行された新ルールにより、ASは大きく変わった。一つひとつの技に対し得点が決められ、フィギュアスケートのような採点方式になったのだ。旧ルールでは国による格付けや印象が順位を左右する印象が否めなかったが、新ルールは演技の出来栄えにより、大会ごとに順位が大きく入れ替わる。

 試合前には、エレメントの実施順序とDD(degree of difficulty、難易度) を記入したコーチカードを提出することが義務づけられている。試合でコーチカード通りに実施できなかったとみなされると、ベースマーク(最低評価)がつき、点数を大きく失うことになる。失敗は許されないが、そもそものDDに差があると勝負することすらできない。選手とコーチは、常にリスクとリターンを考慮しながら試合に臨むことを強いられる。

 公開練習の前日、デュエット代表の佐藤友花は、ワールドカップ・スーパーファイナル(ハンガリー・ブダペスト)でカナダ代表デュエットが泳いだフリールーティンの難易度(56.9500)を確認し、驚いた。早速、個別トレーニングを終えたデュエットのパートナー・比嘉に報告する。

「ちょっと、やばいよ!」

 比嘉も驚愕した。

「あー、もう。やばい!」

「想像していない難易度の点数だったので。元々私たちが『まあ、これぐらいだろう』と思っていた点をはるかに超えていた」(比嘉)

 これは大変だと感じた2人は中島HCの部屋に駆けつけ、報告した。中島HCは、苦笑いで振り返る。

「昨日はまず、映像を見られなくて、サイトだけで見ていて。友花ともえが飛んできて、『先生! 56、これ、嘘ですよね』って。私も信じられなかったので『間違いじゃない?』という話から始まって。『でもとりあえず明日、デュエット・テクニカル(ルーティン)の通しをやるから、とにかくテクニカルに集中しようって。もう夢だと思っとこう』って。

 でも今日映像を見てみたら、本当に56だったので。せっかく前回の(W杯・カナダ)マーカム大会で、もっと芸術性や多様性を上げていこうという方向性に変わったのに、またASが今大会で“DD大会”に変わったので…。今どの国も、自分の国がどういう方向性で戦うか、焦っている状況だと思います。DDがなければ戦えないという競技にまた戻ってしまって、そのレベルがまた上がったので」(中島HC)

 中島HCは、「今のASは、とにかく他国の動向を見ながらDDを上げて・上げて・上げて、というその日々の繰り返し」だと吐露する。

「前のASには、それはなかったので。自分たちのベスト、とにかくいいものを作り上げるというだけだったので、全然違います」(中島HC)

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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