渡辺一平「水泳って難しい」の真意を探る “五輪の魔物”について星奈津美が見解

田中凌平

男子200メートル平泳ぎ決勝で健闘するも日本勢は渡辺(左)が6位、花車が5位に終わった 【写真は共同】

 7月31日(日本時間8月1日)、パリ五輪の競泳5日目の日程が行われた。日本勢2人が決勝に勝ち残った男子200メートル平泳ぎでは、五輪初出場となる花車優(イトマン東進)が5位、渡辺一平(トヨタ自動車)はリオデジャネイロ五輪と同じく6位だった。好調を維持して本番を迎えた渡辺だったが、8年前と同じ順位となり、「水泳って難しい、奥が深い」と吐露。悔しさを滲ませた。

 同日に行われた女子200メートル平泳ぎ準決勝では、ロンドン、リオに続いて3度目の五輪出場となる鈴木聡美(ミキハウス)が全体8位で決勝に進出。鈴木はロンドン五輪で銀メダルに輝いており、12年ぶりの五輪のメダル獲得を目指す。

 日本勢はメダル獲得や決勝進出にまったく手が届かないレベルではなかっただけに、より悔しさが残った5日目。北京大会から3大会連続で五輪出場を果たし、ロンドン、リオの女子バタフライ200メートルで2大会での銅メダルを獲得した星奈津美さんに、五輪で勝つことの難しさを語ってもらった。

新怪物・マルシャンの“支配”の影響を受けた日本勢

レース展開も、会場の雰囲気もすべてを“支配”したマルシャン(中央)。五輪レコードの圧巻の泳ぎだった 【写真は共同】

 男子200メートル平泳ぎは、レオン・マルシャン選手(フランス)が圧倒的でした。平泳ぎ200メートルと200メートルバタフライで五輪記録を出して金メダルに輝くなど、かつての怪物・マイケル・フェルプスさん(米国)と比較され、新怪物と呼ばれているほどです。

 バタフライを専門にしていた私からすると、対極にあるような平泳ぎとの両立が不思議でなりません。個人メドレーを得意としていることから4泳法が得意なのは間違いないのですが、複数の種目において頂点に立てるレベルで泳ぎを極めているのは、まさに異次元です。

 一方、花車選手も渡辺選手もベストに近い泳ぎができればメダル獲得が狙えた結果だったので、より悔しさが増しますよね。レース後に渡辺選手が「水泳って難しい」とコメントを残していましたが、平泳ぎはちょっとしたキックや手をかくタイミングのずれで狂いが生じやすい種目です。身体の疲労度や仕上がりだけでなく、ミリ単位のずれで成績が大きく変わるので、そうした平泳ぎの繊細さに難しさを感じたのかもしれません。

 6月にナショナルトレーニングセンターで練習中の渡辺選手に会った時は調子が良かったですし、ヨーロッパ遠征に行っていた時も2分06秒台をコンスタントに出していました。今後は、調子が良かった時の泳ぎとパリ五輪での泳ぎの違いをしっかりと分析することが重要になります。

 花車選手は初出場で決勝の舞台に立ち、5位の結果を残せたことに自信を持ってほしいです。特に今回は、地元のマルシャン選手へ地鳴りのような応援が響き渡る異常な環境でした。観客の応援はマルシャン選手が息継ぎで顔を上げた瞬間に合わせていたので、その応援でリズムが狂ってしまったのではと心配になりましたね。普段であれば気にならないのですが、あれほどの応援となると少なからず影響はあったと思います。マルシャンがレースも会場の雰囲気もすべてを“支配”していました。そんな難しい状況下でも花車選手が5位になれたのは、前向きに捉えるべき結果です。

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著者プロフィール

東京都出身。フリーライター。ラグジュアリーブランドでの5年間の接客経験と英語力を活かし、数多くの著名人や海外アスリートに取材を行う。野球とゴルフを中心にスポーツ領域を幅広く対応。明治大学在学中にはプロゴルフトーナメントの運営に携わり、海外の有名選手もサポートしてきた。野球では国内のみならず、MLBの注目選手を観るために現地へ赴くことも。大学の短期留学中に教授からの指示を守らず、ヤンキー・スタジアムにイチローを観に行って怒られたのはいい思い出。

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