日本女子フェンシング史上初のメダル獲得  フルーレ団体快挙の分岐点を宇山賢が解説

久下真以子

女子フルーレ団体で銅メダルを獲得した日本。左から宮脇、上野、菊池、東が日の丸を手に持ち、メダルを掲げる 【写真は共同】

 8月1日(日本時間8月2日)、パリ五輪のフェンシング女子フルーレ団体が行われ、東晟良(共同カイテック)、上野優佳(エア・ウォーター)、宮脇花綸(三菱電機)、菊池小巻(セガサミーホールディングス)の4人が出場。3位決定戦でカナダを33‐32で破り、日本フェンシング界にとって女子としては初となる銅メダルを獲得した。

 準決勝でイタリアに39‐45で敗れた日本は、3位決定戦に回った。序盤のピリオドは一進一退の拮抗した展開が続いたものの、第4ピリオドで菊池が14‐13とリードを奪うと、第5ピリオドでエース上野が19‐14と大きくリードを広げる。最後は追い上げるカナダを振り切り、1点差で勝利を手にした。

 花の都・パリで1世紀ぶりに開催された五輪。1924年のパリ大会でフェンシングの女子種目が開催されるようになってから100年の歴史の中で、日本女子が初めて表彰台に立った(日本選手が初出場したのは1964年東京大会から)。フェンシング発祥の地での偉業は、どのように成し遂げられたのだろうか。2021年の東京五輪フェンシング男子エペ団体で金メダルを獲得し、現在はフェンシングやスポーツの幅広い普及の活動を行う宇山賢さんに、快挙の要因について聞いた。

“着火剤”の役割を果たしたリザーブの菊池

3位決定戦で流れを引き寄せたのはリザーブの菊池(右)だった。日本の“着火剤”となる活躍だった 【写真は共同】

 パリ五輪のフェンシングで一番気になっていたのは、会場の雰囲気でした。1900年のパリ万国博覧会のために建設された「グラン・パレ」が舞台になっているのが話題ですよね。高さのある大きな建物ゆえに音の反響も大きいので、選手にとってプラスとマイナスのどちらに影響するのかが現地に行くまで分かりませんでした。本当に声が歓声にかき消されて聞こえないので、審判も大変だったと思います。

 そんな中で、女子フルーレ団体で日本が銅メダルの快挙を成し遂げました。3位決定戦ではリザーブの菊池選手も投入する「全員フェンシング」で勝利を収めましたが、僕の中でのMVPはその菊池選手ですね。第2ピリオドに出場した宮脇選手に代わり、流れを引き寄せる意味でもリザーブの交代枠を使って菊池選手が投入されました。

 第4ピリオドから登場して、1本目から相手を仕留めにいく果敢なアタックをしっかり繰り出していた姿を見て、いきなりの舞台で「しっかり準備ができているな」と感じました。それまで拮抗していた展開だったのが第4ピリオドで1点をリードし、第5ピリオドで上野選手が4点差をつけて、5点のリードに突き放しました。菊池選手が“着火剤”の役割を果たし、上野選手が火をつけたようなイメージです。

 五輪のフェンシングのリザーブは、一度交代すると、その大会はずっと出続けることになります。つまり、リザーブ投入は“一度しか使えないカード”なのです。コーチとしては、劣勢になったときや流れを変えたいときにその枠を使います。たらればの話ですが、準決勝のイタリア戦で菊池選手を出していたら、3位決定戦のカナダ戦のスタートから菊池選手が出場していたため、今回と同じ結果にならなかったかもしれません。リザーブ投入をメダルがかかった勝負の一戦にした選択は、フランク・ボアダンコーチの采配の妙だと言えますね。

 僕も東京五輪の男子エペ団体ではリザーブ登録だったのですが、リザーブは実際に補欠的な扱いです。開会式にすら出る権利が実はないんですよ。だから試合に出場した時点でオリンピック選手(オリンピアン)として認められます。僕はチーム事情で初戦から出場することになりましたが、菊池選手はメダルがかかった試合の重要な局面で投入されて力を発揮した。そうした場面を想定して抜かりない準備をしていたのを想像すると、自分も同じ経験をしているだけに、見ていて嬉しい気持ちになりました。

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著者プロフィール

大阪府出身。フリーアナウンサー、スポーツライター。四国放送アナウンサー、NHK高知・札幌キャスターを経て、フリーへ。2011年に番組でパラスポーツを取材したことがきっかけで、パラの道を志すように。キャッチコピーは「日本一パラを語れるアナウンサー」。現在はパラスポーツのほか、野球やサッカーなどスポーツを中心に活動中。

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