世界の逸材と対峙する日本競泳界の現在地 星奈津美が経験談から五輪で戦う術を語る

田中凌平

女子400メートル個人メドレーを制したマッキントッシュ(右)は、成田と同じく17歳の世界記録保持者だ 【写真は共同】

 7月29日(日本時間30日)、パリ五輪の競泳3日目の日程が行われた。女子400メートル個人メドレーでは成田実生(ルネサンス金町)が決勝に進み6位に、谷川亜華葉(イトマン近大)は予選落ちとなった。男子200メートル自由形では、松元克央(ミツウロコ)が決勝に進み8位入賞。東京五輪ではまさかの予選落ちとなった松元だが、パリ五輪では雪辱を果たし、決勝まで泳ぎ切った。

 日本勢の複数が決勝に進んだ一方、世界の逸材たちの前に惜しくもメダル獲得を逃している。女子400メートル個人メドレーでは17歳のサマー・マッキントッシュ(カナダ)、男子200メートル自由形では19歳のダビド・ポポビチ(ルーマニア)といった海外のティーンエイジャーたちが頂点を極めている。レース後に悔しさを滲ませていた17歳の成田にとって、今後の刺激になることは間違いない。

 五輪を席巻する海外勢の若手と戦うためには、日本の選手は何を強化すべきなのだろうか。競泳3日目に感じられた日本と海外の“差”について、2008年の北京大会から3大会連続で五輪出場を果たし、ロンドン、リオデジャネイロの女子バタフライ200メートルで2大会連続での銅メダルを獲得した星奈津美さんに語ってもらった。

“決勝の緊張感”は必ず今後の成長の糧となる

世界ではマッキントッシュのような類まれな才能を誇る若手が多数台頭している 【写真は共同】

 女子400メートル個人メドレー決勝のレース後の成田選手は悔しそうでしたが、高校生でオリンピックに出て決勝の舞台を経験できたのは素晴らしいことです。私は高校3年生の時に初めて北京五輪に出場したのですが、準決勝で敗れて決勝には進めませんでした。決勝は入場のときから演出が派手になるので、大舞台で戦う緊張感と上手に向き合わなければいけません。この経験を高校生のうちにできたことは、次の出場に向けて大きなアドバンテージになります。

 また、成田選手の持ち味は後半の追い上げなのですが、緊張もあってかうまく追い上げることができませんでした。緊張すると余計な“力み”や“硬さ”につながってしまいます。思ったように身体が動かない結果、さらに力を使ってしまい、後半に体力が残っていない状態になります。特に今回は世界記録保持者のマッキントッシュ選手が隣にいて、スタートから圧倒的な差を見せつけていたので、そこで歯車が狂ってしまったのかもしれません。決勝では予選から10秒もタイムを更新する泳ぎを見せたマッキントッシュ選手は、圧巻の一言です。

 成田選手は細身で小柄なのでもっとパワーが必要だと思う人もいるかもしれませんが、筋肉をつけすぎても乳酸が溜まりやすくなります。現在の成田選手の身軽さが後半の伸びに影響している部分もあるので、今後は身体のバランスを踏まえて、どこに重点を置いて強化するかが焦点ですね。

 成田選手とマッキントッシュ選手は同世代ということもあり、年齢を言い訳にできないかもしれませんが、むしろ「若くても金メダルを獲れるんだ」と前向きに捉えてほしいですね。どんな経験も前向きに捉えられることが、今後成長するうえで絶対に必要です。

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著者プロフィール

東京都出身。フリーライター。ラグジュアリーブランドでの5年間の接客経験と英語力を活かし、数多くの著名人や海外アスリートに取材を行う。野球とゴルフを中心にスポーツ領域を幅広く対応。明治大学在学中にはプロゴルフトーナメントの運営に携わり、海外の有名選手もサポートしてきた。野球では国内のみならず、MLBの注目選手を観るために現地へ赴くことも。大学の短期留学中に教授からの指示を守らず、ヤンキー・スタジアムにイチローを観に行って怒られたのはいい思い出。

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