5大会連続「銀メダル以上」の男子体操 “体操アナウンサー”が語る、見どころと期待

大島和人

橋本大輝は23年の世界体操でも個人総合の金メダルを獲得した日本のエース 【Getty Images】

 今回のインタビューは、パリオリンピックに向けて「体操競技の見どころ」を皆さんにお届けしたい。男子体操は日本の「お家芸種目」だ。五輪の男子団体は2004年のアテネ大会から5大会連続で「銀メダル以上」を続けていて、21年の東京大会は橋本大輝が個人総合の金メダルに輝いている。

 横田光幸さんは高校、大学時代に体操部に所属した経歴を持つフリーアナウンサー。「体操愛」が深く、世界体操や国内の主要大会の実況に加え、今年は日本選手権とNHK杯で場内MCを務めるなど、競技の魅力を伝える仕事も多く手掛けている。今回はそんな「体操アナウンサー」に、この競技の楽しさを存分に語ってもらった。

――横田さんと体操の出会いを教えてください。

 豊橋東高に入学した直後の部活紹介で出会いました。東三河地区大会で毎年3位には入っていたんですよ!(しばらく溜めて)3校しかないんですけど……。「これは面白いな」とハマって、大学も体操部のあるところに行きたいなと考えたんです。レベル的にもいいかなと思って選んだのが静岡大学でした。就職活動も体操の実況がやりたくて、NHKを受けたんですけど、それは落ちました(苦笑)。

――「やる競技」として体操の醍醐味はどんなところでしたか?

 自分で考えて、自分にフィードバックして、何が原因か考えながら、できるようになっていく――。そうやって技ができたときの達成感が、すごく気持ち良いですね。お互いに「こうした方がいい」「ああした方がいい」とか言いながら、仲間と技を作っていくチーム競技の側面もあります。団体戦は楽しかったですね。

体操種目の「仕組み」は?

横田光幸アナウンサーは元体操部で、体操ファンでもある 【撮影:大島和人】

――種目によって「点差がつきやすい」「つきにくい」といった特徴はありますか?

 個人は選手によって得意不得意が違うので、点差がつきやすい種目は一概に言えないです。ただオールラウンダーだと、平行棒は大体みんな高得点が出て、差のつきにくいイメージがあります。逆につり輪はパワーが必要な種目で、若い選手だとまだ筋肉ができ上がっていないので、ベテラン選手と差のつく可能性があります。

――大会を見ていて、途中に落下が起こる種目は点数に差が出やすいのかなと感じました。

 団体で一番差がつきやすいのは、あん馬だと思います。落下の危険性が一番高い種目です。1個1個の技で完結するのでなく、すべてが連続して流れているので、どこかでバランスを崩すと尾を引きます。今のルールだと団体総合(決勝)は5人のうち3人が演技して、3人の得点が採用される方式なので、誰も切り捨てられません。だからもうミスがダイレクトに得点に響くので、あん馬で失敗するかしないかで差はついてしまいます。

――採点の方法について教えても教えてください。

 2006年までは「10点」が最高でした。その後ルールが改正されて、採点の方法も変わりました。「より難しい技を、より美しく見せる」ルールになっています。

 技の難しさを示すのがDスコア(Difficulty Score/D得点)で、難しい技をやった分だけDスコアに加算されます。Dスコアが高い選手になると6点台後半という人も出てきますね。1つ1つの技に対してその価値に応じた得点が決められています。その合計だけでなく「組み合わせ点」があって、あと「必ずこの要素はやってください」という部分もあります。これは加点、積み上げ方式です。

 逆にEスコア(Execution Score/E得点)は減点方式で、10点満点です。これは美しさ、でき栄えを示すスコアです。なのでDスコア6.0の演技を、減点なく行えば16点です。ただし通常はそこから減点されていきます。着地でわずかに動いたら「0.1」の減点で、最少の単位が「0.1」です。落下したら「マイナス1点」というように、減点のルールが細かく決められています。そして、DスコアとEスコアの合計で演技の得点が決まります。

――かなり明確な基準があって、1つ1つ積み上げたり、細かく引いたりして、デジタルな採点をしているんですね。

 得点はかなり厳密に出されます。両方を同時に採点するのは大変なので、DスコアとEスコアは別々の審判が分業してやっています。Eスコアは複数の審判の採点から「最高点」「最低点」を抜いた平均値で順位が決まります。

橋本、岡が日本のダブルエース

岡慎之助は早くから将来を嘱望されてきた20歳 【Getty Images】

――日本の男子団体は2004年のアテネ大会から金、銀、銀、金とメダルを獲得してきて、東京は惜しくも銀メダルでした。今回の代表チームはどうですか?

 現状のベストメンバーであることは間違いありません。東京の経験者が3人(橋本大輝、萱和磨、谷川航)いて、初めてオリンピックに出る選手は2人(岡慎之助、杉野正尭)いますけど、年代的にも良いバランスですね。

 団体戦(決勝)は5人中3人が各種目の演技をしますが、それぞれの得意分野を補う関係もあります。個人総合でも上位を狙える橋本、岡がいて、萱というオールラウンダーがいて、スペシャリストの谷川航と杉野がいて、こちらもいいバランスです。

――橋本大輝選手は東京大会の個人総合金メダリストですが、まだ22歳です。

 ただ、橋本選手自身は団体の銀が相当悔しかったはずです。個人総合の連覇をもちろん見たいところですけど、本人はやはり「団体の金」を獲りたいだろうなと思います。全日本体操団体選手権の実況をやらせてもらったとき、橋本選手は順天堂大で出場していて、優勝したときの喜び方が凄かったんです。世界を獲っている人が、こんなに喜ぶのか……と驚きました。今回も団体は絶対に獲りたいはずです。

――岡慎之助選手は20歳で、5月のNHK杯を制したもう一人のエース格です。(※橋本選手は同大会を負傷で欠場)

 橋本選手に並んでもおかしくないくらいの実力者ですし、まだまだここから伸びるでしょう。世界の最新事情をしっかりは把握できていませんが、個人総合のワンツーは十分あると思います。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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