5大会連続「銀メダル以上」の男子体操 “体操アナウンサー”が語る、見どころと期待
「絶対失敗しない男」とスペシャリスト2人
萱和磨は安定感で日本を支える 【Getty Images】
萱選手は「失敗しない男」という異名があるくらい、安定感や信頼感のある選手です。オリンピック、世界体操も経験しています。「自分の体をずっとコントロールし続けているアスリート」というイメージを僕は持っています。
――「スペシャリスト」の2人についても紹介をお願いします。
杉野正尭選手はあん馬と鉄棒が非常に強く、谷川航選手はつり輪や跳馬で高得点を挙げられる選手です。団体総合の得点を「最大化」させる存在として、貢献が期待できます。杉野選手は初めてのオリンピックで、前回の東京は補欠でした。熱い感情を外に出してくる選手なので、チームの雰囲気を良くしてくれるのではないかと期待しています。
あと杉野選手は鉄棒で「ペガン」という人と違う技を持っています。前に回りながら鉄棒で宙返りをして、半分ひねって鉄棒をキャッチするという技で、これはもうなかなか見ない「レア技」です。そういう技を入れて、成功させて、得点も出すのは体操ファンとして「すごいな」と思いますね。採点規則がある以上、どうしても「得点を取りやすい構成」があって、みんな似たような演技になりがちですけど、彼にはオリジナリティがありますね。
テレビ観戦の楽しみ
結果も大切だが選手には「笑顔」で大会を終えてほしい 【Getty Images】
昔から男子体操はロシア、中国と日本の3カ国で争っています。ロシアは前回の東京大会では「ROC」として金メダルを獲っています。ただ、今回は(※ウクライナ紛争による制裁処分で予選となる大会を欠場した影響で)出場しないと聞いていますので、間違いなくライバルは中国になります。
去年の世界選手権は日本が勝っていますが、中国はアジア大会を優先してベストメンバーではなかったと言われています。しかも鉄棒は1人が2度落下していて、それでも日本と「1.8点差」でした。層も厚いので、まったく楽観視はできないです。
――中国は個人総合の平行棒で16点台を普通に出すスペシャリストがいるとききました。
我々体操ファンの中では「平行棒の神」と言われている鄒敬園という選手がいます。平行棒は種目別でも15点ちょっと出れば決勝に残るのですが、彼だけは16点を超えるんです。
――もしかすると初めて体操を見る人、東京五輪から3年ぶりに体操を見る人もいると思います。そういう人に「楽しみ方」を伝えていただいていいですか?
本当に初めて見る人は「何かすごいことやっているな」くらいの感想かもしれないですけど、それでいいと思います。「これをやったから得点は」などと考えるより「エグ!」「ヤバ!」のほうが楽しいかもしれません。僕は一応審判の資格を持っていますけど、何回ひねったか一瞬わからない時もありますよ。
何がすごいかは、実況や解説が言ってくれるので「高い!」と言えば「ああ、高いんだ」とか、「強い!」と言えば「腕力が強いんだ」とわかります。中継を見てコメントを聞いて「へえ…」と思うのが、一番素直に楽しめる方法かなと思います。
最後に一つお伝えしたいことがあります。僕も体操をやっていて思ったことですけど、選手は最後までミスなく演技できることが、一番嬉しいんです。なおさら世界の舞台なので、そこで選手が喜んでいたら一緒に喜んであげてください。跳馬は2秒しかないですけど、その2秒のために選手は長い時間をかけて準備をしてきています。一生を懸けてやっている人がガッツポーズして喜んでいたら、どの国の選手でもいいから一緒に「良かったね!」と喜んであげてください。
横田光幸(よこた・みつゆき)
【撮影:大島和人】