大型FW、ロングスロー抜きで横浜FMに勝利 逆境を克服した町田の「正しい」努力

大島和人

町田は短期間でチームを立て直し、6月15日の横浜FM戦を3‐1で勝利した 【(C)FCMZ】

 FC町田ゼルビアはかなり厳しい試練に直面していた。筑波大と対戦した6月12日の天皇杯2回戦は、延長PK戦の末に敗退。結果以上の痛手が4選手の長期離脱が伴う負傷で、チャン・ミンギュ、安井拓也、ナ・サンホ、ミッチェル・デュークはいずれもチームの主力だ。

 試合後には黒田剛監督が相手チームの危険なプレーとマナー、審判のゲームコントロールを批判。それは結果以上に大きく取り上げられ、決して小さくはないオフピッチの反発を招いた。選手の目にはSNSなどから届く批判も目に入っていただろう。中2日という条件は相手も同じだが、メンタルも含めた切り替えが容易だったはずはない。

負の連鎖を乗り越えた今季初の逆転勝利

 町田は直近のリーグ戦(6月1日/町田●1-3新潟)でも敗れていた。実は黒田監督の体制になってから、連敗が一度もない。悪い試合をしたあとの引き締め、修正を54歳の指揮官は武器にしてきた。

 しかしどう考えても、悪条件が多すぎた。町田は上記の4人に加えて、韓国代表でエースストライカーのオ・セフンもコンディション調整のためベンチから外れていた。U-23代表の藤尾翔太と平河悠は先発したものの、アメリカ遠征から帰国した直後だった。

 そんな中で迎えた15日の横浜F・マリノス戦で、町田は14分にいきなりの失点を喫してしまう。今季の町田は先制された試合に限ると「0勝4敗」で、逆転勝利が一度もない。分厚い暗雲がチームの上空には漂っていた。

 町田はここから試合をひっくり返す。43分にコーナーキックから昌子源が同点ゴールを決めると、後半さらに2得点。アウェイで3−1の逆転勝利を飾った。

 負傷者問題は「負の連鎖」を起こす誘引にもなっていた。仙頭啓矢が安井の負傷により天皇杯で想定外の長時間出場を余儀なくされ、横浜FM戦はベンチスタートとなった。一方で先発に繰り上がった下田北斗は1点目の起点となり、ダメ押しとなる3点目の直接FKを沈めた。

 黒田監督はこう振り返る。

「本当は仙頭を(天皇杯で)あまり出すつもりがなかったのですが、出さざるを得なくて、中2日のコンディションを多少考慮したところもあります。またヘンリー(望月ヘンリー海輝)を使うことで、フリーキッカーの鈴木準弥がいなくなります。そこに(下田)北斗を入れて、また違うクオリティが出ました。キッカーが右利きから左利き(の下田)に変わると、準備が散漫になりやすいし、ターゲットを絞りにくくなる。それが良いほうに回ったのかなと思います」

SB望月が攻撃のキーマンに

望月はスピード、大きなストライドでロングボールを受けていた 【(C)FCMZ】

 望月は横浜FM戦のキーマンだった。彼も12日の天皇杯で、負傷交代のチャン・ミンギュに変わって112分の長時間出場をしている。それでも中2日の影響を感じさせないアグレッシブなプレーを見せた。

 普段の町田は前線へのロングボールを多用するスタイルだ。横浜FM戦は194センチのオ・セフン、186センチのデュークを欠いたことで、前線の高さを活かせない状況だった。それでもサイドハーフを中心に、エリア両脇の「ポケット」を突くアタックに成功していた。

 黒田監督はこう説明する。

「まず平河(悠)、そして(バスケス・)バイロン、藤本(一輝)のスピードでサイドバック(SB)の裏を突けます。SBの食いつきがかなり激しいことから、そこ(SBがサイドハーフに寄って空いたスペース)へのダイアゴナル(斜めの動き)をかなり狙えるぞという狙いで入りました。また真ん中にターゲットを置かなくても、ヘンリー(望月ヘンリー海輝)を張り上がらせることによって、起点は作れます。そのセカンドボールを回収することで、ポケットの攻略はできるだろうと考えていました」

 町田は右サイドへの大きな展開を多用し、望月の高さや速さを活かしていた。指揮官は望月の活用についてこう述べる。

「ここ最近、調子を上げている選手のひとりです。過去のゲームを振り返っても、彼のところからかなりチャンスを作れています。サイドハーフが相手のSBにロックされるケースが多いので、その(SBがサイドハーフに付いて空いた)スペースを狙うことによって、一気に陣地を打開する練習をしていました。ゴール前のクオリティやスキルはもう一つ積み上げなければいけませんが、相手の脅威になっていたと思います」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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