大型FW、ロングスロー抜きで横浜FMに勝利 逆境を克服した町田の「正しい」努力

大島和人

「つなぐ町田」を見せる

GKのビルドアップ参加で、横浜FMの守備に迷いが生まれた 【(C)J.LEAGUE】

 横浜FM戦は町田がいつも以上に最後尾から「つないで」いた試合でもある。GK谷晃生がパスコースに入り、両CBとともにビルドアップに関わる場面が多かった。後方の3枚が相手の2トップに敢えてプレスをかけさせ、空いたボランチに通すパスワークもあった。いわゆる「ポゼションサッカー」のチームでは標準装備をされている崩し方だが、町田がこれをやるのは珍しい。

 谷はこう説明する。

「前線の高さがないのもそうですし、自分があそこで受けてプレッシャーが来ないなら、その分(ボールに関わる)人数は多くなります。相手が出てきてくれたら、スペースも空いて、ヘンリーを使ってセカンドボールも拾えます。(プレスが)来なければつないでゴールまで行けるという部分は、チームがずっと(練習で)トライしてきているところでした。それが試合の中で1つ2つ出れば、相手もまた対応を変えなければいけません」

 当然ながら相手チームは町田を研究し、その強みを封じてくる。ロングボールを想定して無理にプレスをかけず、陣形をコンパクトに整えるチームは多い。

 町田は「つなげるならつなぐ」「運べるところまで運ぶ」という選択をして、守備を迷わせた。横浜FMの守備が後半に入って奪いどころを絞れなくなっていた背景には、おそらく最終ラインからのビルドアップを先に見せた影響がある。

 横浜FMはロングスローも警戒していたはずだ。町田はボールを拭いて握りやすくするためにタオルをサイドライン沿いに並べる。これに対して横浜FMの選手が自分たちのベンチ前からタオルを別の場所に移して応戦する一幕もあった。

 しかし結局、町田は後半ロスタイムに交代出場の鈴木準弥が「1本目」を放つまで、ロングスローを使わなかった。ターゲットとなる選手がおらず、使うメリットもなかったのだろう。

 どんなチームも相手の強みを研究し、手を打ってくる。町田はワンパターンを貫くのでなく、「二の矢」を用意している。開幕からリスクを抑制した手堅いサッカーで勝ち点を積み上げながら、練習場でその先に向けた準備を重ねていたからだ。

課題を解消し、成長を続ける町田

望月は粗削りな部分を残しつつ、驚異的なポテンシャルを持つ大器だ 【(C)FCMZ】

 結果が出た試合にも、反省点はあった。例えば望月は1失点目の対応で、得点に直結するミスを犯している。両チームの選手が交錯して、シュートブロックに出ていくコースが塞がっていた状況もあったが、宮市亮にいい形でシュートを打たせてしまった。

 彼はこう反省する。

「あそこでカバーに入っていなかったら、おそらく僕にボールが転がってきて、クリアできたと思います。カバーに入るべきなのか、そういうところの判断をもっと高めていきたい。(監督から)シュートブロックの部分も言われました。ニアに打たれてもキーパーが立っているので、ファーを消すようにと指摘されました」

 望月の急成長は、試合ごとに浮上するこのような課題を消化して、次に活かしているからだ。町田は発展途上のチームで、成長は現在進行系。望月以外も平河、藤尾と若手が短期間に急浮上を見せている。チームも試合の中で使える「武器」を増やしている。

 町田はJ1初昇格の新参者で、良くも悪くも色眼鏡で見られがちだ。取るに足りないプレー、アクションを深読みされて、大げさに褒められる例をよく目にする。逆にJ1首位という結果を残しつつ、過去の乏しい実績から「何かズルいことをしているからに違いない」といった偏見で見られがちだ。

 敢えて言い切るなら、躍進の理由はシンプルだ。好成績は選手とスタッフが正しく努力をして、高レベルなサッカーを実現しているから生まれている。もう一つは横浜FM戦のような逆境におけるリバウンドメンタリティだ。

 とはいえ町田は不完全なチームで、望月に限らず個々の課題も少なからずある。その証明は天皇杯2回戦、新潟戦の敗戦だ。

 相手を受け流す、試合展開を見て「加減する」ような老練さ、狡猾さも当然ながらない。ただし横浜FM戦のような試練を迎えると、チームは引き締まって普段以上の試合を見せる。

町田が見せている「ちゃんとした」サッカー

横浜FM戦は天皇杯で負傷した4選手の思いも背負った戦いだった 【(C)FCMZ】

 試合後には黒田監督が「町田は決して悪ではなく、我々が正義」と発言して、サッカーファンの多くから反発を受けた。「正義」の単語を排他的で、他チームを否定する意味に取ったファンが多かったからだろう。

 サッカーに善悪があるかは別にして、このチームが「サッカーをちゃんとやっている」ことは間違いない。大型センターフォワードへのロングボールを使えなくても、ロングスローを使わなくても、J1の首位に相応しいサッカーを見せられる。

 もちろんJ1はまだ前半戦で、大切なのは最終順位。繰り返しになるが、町田は発展途上のチームだ。現状としてJ1に「ほどほど」の試合運びで勝てるような相手は一つもない。すべてを出し尽くして、緩みなく戦うことが上位を保つ最低条件だ。

 J1は小手先の「邪道なサッカー」で勝ち続けられるカテゴリーではない。数試合の好調ならともかく、第18節の時点で首位という成績には真っ当な理由がある。

 黒田監督の発言に反発するファンがいるのは当然だ。ファウルやカードの数もJ1の中では多い方で、それを「荒い」と嫌う人がいるのも分かる。ただピッチ上を色眼鏡なく見れば、選手やスタッフがどれだけ努力を重ねてきたかを感じてもらえるだろう。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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