「攻撃的3バック」は日本サッカー成長の証明 2連戦での「可変」に見る戦術的な幅の広がり

舩木渉

ワールドスタンダードに近づいた日本代表の選手層

冨安や板倉ら世界のトップクラスと比べても見劣りしない体格と実力を備えたセンターバックが日本代表には揃っている 【Photo by Kenta Harada/Getty Images】

 カタールW杯も経験した谷口は「今の世界を見ると、どの国も、どのチームも守備範囲の広い選手が後ろにいますし、そういうところが上にいっている」と述べたうえで「日本代表もW杯でベスト8以上、そして優勝を目標に掲げているなら、後ろが少ない人数で守り切れるくらいの能力が必要」と指摘した。

 ディフェンスラインの3人+GKで相手の攻撃の芽を摘み切れるなら、攻撃に転じた瞬間、より多くの選手に優位な立ち位置を取らせるができる。ヨーロッパの代表でもクラブシーンでも強豪が3バックを採用する際には、守備時に5バックで構えるのではなく、ディフェンスラインの3人ないしセントラルMFを加えた4人で相手の攻撃に対処し、反撃に移るスピードや威力を最大化することを目指すケースがほとんどだ。

 そのためには3バックを構成するDF全員が個の身体能力や対人守備能力で相手を凌駕(りょうが)する必要がある。谷口も「3バックはマンツーマンになるシーンがけっこう出てくるので、そこで1つ剥がされてしまうと、全てがズレてきてしまう。基本的にハッキリと人を捕まえる分、逆にそこの責任感も増すというか、そこで潰さないとズレてくるし、逆にそこで潰すことができれば優位に進められるというのはメリットの1つになる」と個々の対応力が鍵を握ると考えている。

 一方で「今の日本代表のメンバーを見ると、個で潰せる選手は多いですし、僕たちのディフェンスのベース力が向上しているので、より守備の戦術が向上するところはあると思います」と、チーム全体を通しての個の成長も実感しているようだった。

 カタールW杯のスペイン戦やクロアチア戦で採用した5バックで守ることを前提とした後ろ重心の3バックではなく、最小限の負担で守りつつゴールを奪うことから逆算した3バックを成立させる。そのうえで試合中に3バックと従来の4バックを使い分けたり、相手の出方に応じて3バックと4バックを可変させながら戦ったりするオプションを増やしていく。こうした戦術的な幅の拡充は、世界で勝つための必須要素であり、日本サッカー全体の成長を証明するものにもなる。

戦術の幅は広がった。自信とともにアジア最終予選へ

シリア戦では出番のなかった谷口彰悟だが、6月シリーズを通してチームの進歩を実感しているようだった 【Photo by Wataru Funaki】

 実際にミャンマー戦やシリア戦では、試合中のシステム可変や前後半での使い分けもテストすることができた。シリア戦の後半に冨安、板倉、町田、伊藤の4人がディフェンスラインに並んだのも日本サッカーの進化を実感するポイントだ。センターバックにも対応できる体格と高い身体能力を兼ね備えたDFを4人並べることがワールドスタンダードになりつつある現在、「世界に比べて体格で劣る」と言われ続けた日本代表が、ヨーロッパのトップリーグで活躍する選手ばかりを並べた平均身長188.5センチの4バックを組んで戦えるようになったのである。

 谷口は言う。

「センターバックだけ、サイドバックだけという選手ではなく、ユーティリティに(両方)できる選手が多くなってきていますし、ああやって試合の中でいろいろと変えていける、外からの指示で3バックなのか4バックなのかというだけでなく、試合中に3人で(ボールを)回した方がいいのか、4人で回した方がいいのかと自分たちで臨機応変に対応できる能力を持った選手たちがたくさんいる。そこは日本代表の強みの1つになっていくかなと。ここから最終予選で厳しい戦いが続く中で、相手が分析してきても狙いを定められない、『3バックと4バック、どっちでくるんだろう?』と迷わせることができるかなと思います」

 伊藤も「誰が出てもクオリティが下がらないように、チームとしても共有できた2試合だと思うし、3バックでも4バックでも、いろいろなバリエーションを持って最終予選に向かっていければいい」と、谷口と同じ見解だった。「最初から4バックでやっていたら、もっとスムーズだったかも…」と語る選手もいた2020年欧州遠征のパナマ戦とは、得たものの大きさが違う。

 他の選手たちも谷口や伊藤と同様に2試合を通して戦術的な幅の広がりに手応えを感じている様子で、それぞれの発言は試合前日の森保監督のコメントともリンクしている。先に引用した筆者の質問に対する答えには、さらに続きがあった。

「3バック、4バックと違いはあるように思いますけど、実は試合中に4バック気味になるなど、自分たちがより(攻撃を)仕掛けていける時と(守備で)受け身になる時とで、選手たちが試合の状況によって可変しながら、戦いの中でバランスをコントロールしてくれています。形として3バック、4バックということはトレーニングの中では限定的にやりますが、受け身であれ攻撃的であれ、試合中は我々が主体で可変していけるようにしていきたいと思っています」

 もちろん久保建英が言うように「本当に強い相手とやらないと、この3バックが正解かわからない」のは間違いないが、新しいチャレンジに対して自信をつかんだうえで、より厳しい戦いが予想されるアジア最終予選へと進めることには非常に大きな意味がある。

 相手の戦い方に応じて、自分たちが優位に立てるよう柔軟に変化していくことが森保監督の言う「我々が主体で可変していけるように」の真意だろう。「安定した守備から攻撃に移っていくというチームのコンセプトをより具現化してくれる選手たちがいる」うえで、どんな相手にも常に主導権を握って試合を進められる組織になれば、日本代表はアジア最終予選でも、その先のW杯でも過去の歴史を塗り替えられるはず。日本サッカーの成長を象徴するような2試合での成果が、9月以降の戦いでも存分に生かされることを大いに期待したい。

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著者プロフィール

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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