連載:最先端レフェリング論

[金曜特別コラム]最先端レフェリング論(3) 日本の審判レベルと環境の実態

木崎伸也

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VARに正確性を求めるが故の弊害も

VARは見る者の感情が大きく揺さぶられる瞬間となっている 【(C)J.LEAGUE】

 審判たちの負担を代償として、ビデオ判定にまつわるドラマは今や試合におけるエンターテインメントの一部になっている。

 主審が指を耳に当て、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)からの情報をもとにジャッジを下すまでの時間は、合格発表を待つかのような独特の緊張感がある。望み通りの結果になろうが、その反対になろうが、感情が大きく揺さぶられる瞬間になる。

 ただし、あくまですみやかに判定が行われ、適切な待ち時間に収まったときの話だ。確認に時間がかかりすぎたり、介入が多すぎたりすると、観戦への集中が妨げられてしまう。

 たとえば4月27日に行われたヴィッセル神戸対京都サンガF.C.戦では、神戸がロングスローの流れから得点した際、まずはVARがオフサイドと判断し、試合が再開されそうになったがそこから再度ビデオ判定が行われて京都側のハンドとジャッジされた。最終的にPKとなるまでに約9分間試合がストップ。正確なジャッジだとしても、時間がかかりすぎだろう。

 アキュラシー(正確さ)とスピード(速さ)の両立が、VARの運用には不可欠である。

J1のビデオ判定時間は昨季大きく短縮した

VARを担当する主審と副審たちにスピーチする審判マネジャーの佐藤 【スポーツナビ】

 日本サッカー協会(JFA)審判マネジャーの佐藤隆治は、その両立に最も力を入れているひとりだ。2022シーズン限りでトップリーグ担当審判員から勇退すると、JFA審判マネジャーVAR担当に就任。2023シーズンはJ1毎節ごとにVAR担当者に改善点をフィードバックし続けた。

 今年1月下旬に行われた審判合宿において、佐藤はJリーグでVARを担当する主審と副審たちにこうスピーチした。

「僕から厳しいフィードバックを受けて、嫌な思いをした人もいるかもしれない。それでもみんなが1年間本気でプロトコルに取り組んでくれたおかげで、VAR介入に関するデータが改善した。常に前へ進み続けられるのが、このJFAのレフェリーグループだと思う。みなさんに心から感謝しています」

 JFAのレフェリーグループ全体として正確性と速さを追求したことで、2023シーズンのJ1におけるビデオ判定に要した秒数は大きく短縮された。

 たとえばオンフィールドレビュー発生時、VAR(およびAVAR)が映像を確認するのに要した時間は36秒短縮された(2022年117.6秒→2023年81.6秒)。

J1のオンフィールドレビューに至るまでの確認時間は、22年から23年で平均36秒も短縮されている 【(C)J.LEAGUE】

 ちなみにオンフィールドレビューとは、VARからの助言を受け、主審がピッチ脇に設置されたモニターで自らリプレイ映像をチェックすること。VARが主審にオンフィールドレビューを助言する際には、事前に問題となるシーンを特定しなければならない。それに要した時間が36秒短くなったのだ。

 オフサイドなどの客観的事実をVARが判定するオンリーレビュー(主審はVARからの情報を聞き、その情報を元に映像を確認することなく最終判定を下す)に要した時間は横ばい(2022年114.8秒→2023年118.2秒)だったが、今年はこれについても短縮できる見込みだ。

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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載開始。

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