【月1連載】久保建英とラ・レアルの冒険(毎月第1木曜日更新)

主力流出に現実味、ソシエダに変革の波が──久保建英の相棒に推したい新ストライカーは?

高橋智行

第36節バレンシア戦で今季9回目のマッチMVPを受賞した久保。尻すぼみの印象は否めないとはいえ、昨季以上の評価を与えていいシーズンを過ごした 【Photo by Ion Alcoba Beitia/Getty Images】

 2022年夏のレアル・ソシエダ加入をきっかけに、ワールドクラスへの階段を上り始めた23歳の若武者を、現地在住の日本人ライターが密着レポートする月1回の連載コラム、『久保建英とラ・レアルの冒険』。最終回となる第9回目のテーマは、2023-24シーズンのパフォーマンス総括と、ソシエダ主要メンバーの去就予測。この夏、複数のレギュラークラスの退団が予想されるソシエダだが、はたして久保のサポート体制は──。

クロスの本数が昨季からほぼ倍増

 久保建英にとって、プロキャリアで最もタフなシーズンが幕を閉じた。

 スペイン5年目、2023-24シーズンの公式戦成績は、41試合(先発33、フル出場17)出場、プレータイム2,931分、7得点・4アシスト。ラ・リーガのマッチMVPを9回、月間MVPを1回、さらにチャンピオンズリーグ(CL)でもマッチMVPを1回獲得した。

 2シーズン連続で掲げた「得点とアシスト合わせて20」、および今季初ゴールを記録したジローナとの開幕戦後に口にした「二桁得点は取りたい」という目標には、いずれも届かなかった。ただ、サイドアタッカーであることを考えれば、それでも十分な数字だろう。

 レアル・ソシエダは開幕直前、大黒柱のダビド・シルバを怪我による引退で失い、不安の中でシーズンをスタートした。久保にとっても良きパートナーだったシルバの不在は痛かったが、イマノル・アルグアシル監督の信頼は変わらず、4-3-3の右ウイングとして絶対的な地位を確立した。

 序盤戦のソシエダは、左サイドで相手を引きつけ、そこから右サイドに張る久保に大きく展開する、いわゆる“久保システム”がうまく機能した。広大なスペースを享受した久保は、得意のドリブルを駆使してフィニッシュに関与。まさに水を得た魚のようだった。

「久保にボールを預ければ何かが起こる」

 サポーターは期待し、久保もそれに応えるようにゴールを量産。第8節までに5ゴールを挙げ、得点ランキングの上位につけた。当時のパフォーマンスは、最終的にラ・リーガの年間最優秀選手賞に輝くジュード・ベリンガム(レアル・マドリー)と並び称されるほどだった。

 しかし、5回目のマッチMVPに選出された第8節のアスレティック・ビルバオ戦で、自らのゴールを“ヒップダンス”で祝ったのを最後に、その得点力に陰りが見え始める。

 マドリーのカルロ・アンチェロッティ監督は、「ラ・リーガは戦術面において、プレミアリーグよりもはるかに優れている」と話したが、その言葉通り、対戦相手は即座に“久保対策”を講じていった。

 第9節のアトレティコ・マドリー戦は、その顕著な例だ。守備的な戦術を得意とするディエゴ・シメオネ監督のターゲットとなった久保は、徹底マークに遭い、ほとんど何もやらせてもらえなかった。

 試合を重ねるごとに、これまで以上に厳しいチェックやダブルマークを受ける場面が増えていく。それでもクレバーな久保は、自分にマークが集まることを逆手に取り、味方を生かすプレーでこの状況を打開する。右サイドから簡単に中に入らせてもらえなくなると、クロスを多用してチャンスボールを供給。実際、クロスの本数は昨季の72本から145本にほぼ倍増している。

 初挑戦のCLでも対戦相手から“危険な存在”と認識される中、攻守に渡って身を粉にして働き、チャンスメーカーとして自身の価値を示した。チームは昨季のファイナリストであるインテルを抑え、無敗でグループステージを首位通過。ヨーロッパにソシエダの名を轟かせた。

12試合連続無得点でシーズンを終えたが

試合を重ねるごとに相手のマークが厳しくなったことに加え、アジアカップへの参戦もあって、後半戦はフィジカルコンディションの低下にも悩まされた 【Photo by Florencia Tan Jun/Getty Images】

 新年を迎え、久保はシーズン途中の開催に不満を持ちながらも、日本代表としてアジアカップに参戦。チームを1カ月ほど離脱せざるを得なかった。

 この時期のソシエダは、毎週ミッドウイークに試合があるにもかかわらず、特定の選手を起用し続けたことで、怪我人がシーズン最多の7人にまで増加。スペイン国王杯はなんとか準決勝進出を決めたが、1月下旬からの公式戦10試合でわずか1勝と絶不調に陥った。

 久保が復帰するのは、2月6日のマジョルカとの国王杯準決勝第1レグ。しかし、悪い流れのチームですぐにいいプレーなどできるはずもない。加えて、過密日程による疲労の蓄積と、それに伴うフィジカル面の問題が重なり、パフォーマンスはなかなか上向かなかった。

 チームが負のスパイラルから抜け出すのは、皮肉にも国王杯の準決勝でマジョルカに、CLのラウンド16でパリ・サンジェルマンにそれぞれ敗れ、ラ・リーガ一本に集中できるようになってからだった。

 しかし、その一方で久保は慢性的な疲労から回復できず、度重なる怪我にも苦しめられるようになっていく。3月31日(現地時間、以下同)のラ・リーガ第30節のアラベス戦では、右足ハムストリングを負傷し、前半終了間際での交代を余儀なくされた。代えの利かない選手として身体を酷使してきた代償を、ついに払う時が訪れてしまった。

 代わってチャンスを与えられた途中加入のシェラルド・ベッカーは、得点とアシストの両方で結果を残した。さらに、チームが勝ち点を落とせない状況で守備的に戦ったこともあり、久保の出番は激減する。結果的にソシエダは、6位フィニッシュで来季のヨーロッパリーグ(EL)出場権を獲得。久保のフィジカルコンディションを考えても、アルグアシル監督のこの判断は正しかったと言えるだろう。

 負傷後から最終節までの8試合で、久保の先発出場はわずか3試合。2月18日のマジョルカ戦でのゴールを最後に、12試合連続無得点のままシーズンを終えることになった。

 たしかに、尻すぼみの印象は否めないかもしれない。しかし、過去一番にタフなシーズンを戦い、徹底マークに遭いながらも、“MVPコレクター”になったこと(第36節バレンシア戦で今季9回目のマッチMVPに選出)、そしてチームがEL出場権獲得、国王杯ベスト4、CLベスト16という結果を残したことを考慮すれば、久保にとって昨季以上のシーズンだったと評価できるのではないだろうか。

 なにより、今季のラ・リーガ年間最優秀選手賞、およびU-23年間最優秀選手賞の各10人にダブルノミネートされた事実が、久保の素晴らしかった1年を雄弁に物語っている(最終的にベリンガムとバルサのラミン・ヤマルがそれぞれ受賞)。

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著者プロフィール

茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年に渡西。サッカー関連の記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、ラ・リーガを中心としたメディアの仕事に携わっている。

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