シャビ・アロンソ監督は何をどう変えたのか バイエルンの12連覇を阻んだレバークーゼンの強さの秘密
就任2年目のシャビ・アロンソ監督が率いるレバークーゼンが、開幕から無敗のまま優勝まで駆け抜けた。42歳のスペイン人指揮官は、バイエルンの12連覇を阻んだ強力なチームをいかにして作り上げたのか 【Photo by Jürgen Fromme - firo sportphoto/Getty Images】
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最優先で取り組んだのが安定した守備の確立
プロになるほどの選手なら、誰もがそれなりの戦術理解力を持っており、基本的なサッカーのメカニズムは身体に染み込んでいる。それなのに、観客の誰もがわかるような初歩的なミスをしてしまう。チーム戦術や必要な動きがわからないのではなく、細部まで整理できていないからぼやけてしまい、その結果ミスをするのだ。
アロンソは就任後しばらくは、チームのシステムを大きく変えずに修正を施そうとした。しかしその後、それまでメインで採用していた4バックから3バックに変更した。ドイツ代表ヨナタン・ター、コートジボワール代表オディロン・コスヌ、ブルキナファソ代表エドモン・タプソバ、エクアドル代表ピエロ・インカピエと優れたCB(センターバック)を揃えていながら、選手間の距離が適切ではないことが多く、互いに支え合う関係性が希薄になっていた点を改善しようとしたのだ。
3人のCBは互いの距離と位置関係を常に意識しながらプレーすることを求められ、特に自チームが攻撃している時こそ、次の展開を予測したポジションを取ることを徹底された。ある試合ではタプソバがチャンスと思って攻め上がろうとしたのを見て、コーチングゾーンからアロンソが烈火のごとく怒ったことがあった。
元ドイツ代表DFで、レバークーゼンでのプレー歴もあるルーカス・シンキヴィッツがこんな話をしてくれたことがある。
「CBにとって特に大事なのは次の展開、さらにその次の展開まで考えながらプレーをすることだ。今、その瞬間の状況に対応するようにプレーしていたら、試合の流れから置いていかれてしまう。頭の中に常に未来のビジョンを写しながらプレーできないと、すぐにピンチに陥ってしまうんだ」
SB(サイドバック)にも対応するインカピエを左サイドへ回し、ターとコスヌとタプソバがセンターを固める。そして、その前の近い位置にダブルボランチがポジションを取り、必ずフィルターの役割を果たすというメカニズムが確立されていったこともあり、昨季が終わる頃には安定感のある守備が完成しつつあった。アロンソはほかの部分の修正を後回しにしてでも、まずはチーム作りの基本としてじっくりと守備へのアプローチに注力し続けたのだ。
効果絶大だったジャカとグリマルドの補強
夏に加入したジャカが、8シーズンぶりとなるブンデスリーガで躍動。卓越した戦術眼と確かな技術を備えるこのスイス代表が中盤に入ったことで、ボールの動きがスムーズになった 【Photo by Nigel French/Sportsphoto/Allstar via Getty Images】
昨季までのレバークーゼンは、俊足揃いのオフェンス陣の特性を活かしたカウンターが攻撃の主戦術だった。スペースがあって、そこにタイミングよくパスが出てきた時の破壊力は確かにすごい。ただ、相手もそんな狙いを把握していて、ゴール前で守備を固めて走らせないようにケアするため、カウンターが威力を発揮するのは散発的だった。
そこでアロンソは、たとえ相手に守備を固められてもチャンスを作り出せるように次のステップへと移行していった。そのための強化として、夏の移籍市場でアーセナルからスイス代表MFグラニト・ジャカ、ベンフィカから技巧派のアレハンドロ・グリマルドを獲得。そしてこの補強が予想以上の効果をもたらすこととなった。
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2023-24シーズンのレバークーゼンのスタメン 【YOJI-GEN】
一方のグリマルドはスタメン表では左SBと記載されることが多い選手だが、そのタスクは誰よりもバリエーションに富んでいる。
モダンサッカーではポジションによってタスクが決まるのではなく、その選手のクオリティが各ポジションにおけるタスクを決めることが増えている。グリマルドはその点でまさに現代的な選手だ。狭いスペースでボールを受けても慌てず、巧みなボールコントロールでパスを出す時間とコースをどんどん作り出し、ワイドに開いても、ハーフスペースにいても、最適なプレーを瞬時に選択できる。グリマルド1人でSB、ボランチ、インサイドハーフ、サイドハーフの全ての役割をハイレベルで実行してくれるのだから、チームにとってはこれほど頼りになる存在はいない。